ザ・レイド : 映画評論・批評
2012年10月16日更新
2012年10月27日よりシネマライズ、角川シネマ有楽町ほかにてロードショー
抽象的で不条理という状況の中でシラットの激闘が炸裂する
インドネシアから、こんなに過激なアクション映画が出てきたとは、嬉しい驚きである。全篇に銃弾がとびかい、ナイフが血を吸い、そして<プンチャック・シラット>を基礎とした肉弾戦が、激しい痛みを見る者の肉と骨に想像させる。ぼくは初めて知ったが、インドネシアを中心にしたマレー文化圏伝統の格闘技だそうで、全身をくまなく使って打つ、蹴る、関節をきめる、攻撃的かつ実践的な武術であるようだ。
主人公の若い警察官が、暁方、臨月近い妻をベッドに残して出る。次のシーンは、もう目的地へ向かうSWATチームの車の中。20人ほどのチームは悪人どもが巣くうビルを襲撃(レイド)しに行くのだ。
このビルには犯罪者以外の一般人も居住している。ミニ九龍城といったイメージ。突入し、まずは銃撃戦。敵のボスは上のほうの階で監視モニターを見て指揮、となりのビルからも狙撃させるし、外で待つ警察車輌も運転手ごと始末させる。SWATチームの人数は、この段階ですでに激減。そして、これは出動を命令した警部補の独断による襲撃作戦なので、応援部隊の要請はできないということがわかる。
迷路のような魔窟の中で残った数人の隊員たちは、いかにサバイバルしていくか。非常に抽象的で不条理、「死亡遊戯」的というよりカフカ的という状況でシラットの激闘が炸裂する。
監督のギャレス・エバンスはウェールズ出身というからイギリス人か。2007年にシラットのドキュメンタリーを撮ったのが縁で、そこで知ったイコ・ウワイスを主演に、最初の長編劇映画「ザ・タイガーキッド 旅立ちの鉄拳」(09)を監督し、今度が同じコンビでの第2作。昨年日本でDVDリリースされていた前作も今回初めて見てみたら、面白かった。
ちなみに、シラットのドキュメンタリーを製作したのは日本でも「枕の上の葉」等で知られるインドネシアの大女優クリスティン・ハキムで、「ザ・タイガーキッド 旅立ちの鉄拳」にはイコ・ウワイスの母親役で出演している。
(宇田川幸洋)