横道世之介 : 映画評論・批評

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横道世之介

劇場公開日 2013年2月23日
2013年2月12日更新 2013年2月23日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

オフビートな笑いが紡ぐ、愛おしくも神々しい光

誰もがどこか他人でない気がしてしまう。いつも汗にまみれ、不器用で、お調子者。けれど友が悩みに暮れていると全力で応援してくれる存在。それが高良健吾の演じる世之介だ。その立ち位置から言うと彼はある意味、究極の脇役なのかもしれない。しかし吉田修一の青春小説ではそんな彼こそが主役を担う。独特な間合いで惹き付ける沖田修一監督の手腕も相まって、観客の胸には学生時代の記憶が蘇り「あんな奴いたなあ」と顔が綻んでしまうことだろう。

本作は80年代に長崎から上京した世之介が友人とつるんだり、年上の女性に恋したり、富豪の娘に惚れられたりして過ごす1年間をオフビートな笑いで包んだ物語である。と同時に、映画は時折トーンを変え、16年を経た後日談を静かに揺らぐ振り子のごとく垣間見せていくのだ。

そこでは歳を重ねた友人らがそれぞれに世之介のことを想起している。彼について語るとき、誰もが笑顔だ。しかしそこに世之介の姿はない。彼にまつわる80年代の記憶が活気に満ちていればいるほど、00年代における不在は際立つ。さらにある事実が明かされるや、過去を照らす光は世之介というアイコンをよりいっそう愛おしく、神々しく浮かび上がらせていく。

この映画では観客もまた記憶の旅人。80年代カルチャーに満ちた新宿の喧騒にむせ返りそうになり、なおかつ、誰にも自分の人生を力強く肯定してくれた尊い存在があったことを思い起こさせる。そして極めつけは、ぶっ飛んだお嬢様役の吉高由里子が一転して見せる追想の表情だ。張り裂けそうな心の痛みと、記憶の中の歓びが渦巻き、笑顔になって昇華していくこのシーン。160分の旅を終えた筆者の心情もまさに同じだった。人間の心の機微を慈しむ沖田演出の真髄を見た想いがした。

牛津厚信

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