虹色ほたる 永遠の夏休み : インタビュー
宇田鋼之介監督、手描きを貫いた最新作で描く“次への一歩”
東映アニメーションが送りだすオリジナル長編アニメ「虹色ほたる 永遠の夏休み」が、5月19日に公開される。作家・川口雅幸がホームページで連載した人気小説を、懐かしさを感じさせるタッチで映画化。大ヒットアニメ「ワンピース」シリーズのディレクターとして知られ、今作のメガホンをとった宇田鋼之介監督が、作品に込めた思いを語った。(取材・文・写真/編集部)
東映アニメーションが送りだすオリジナル長編アニメ「虹色ほたる 永遠の夏休み」が、5月19日に公開される。作家・川口雅幸がホームページで連載した人気小説を、懐かしさを感じさせるタッチで映画化。大ヒットアニメ「ワンピース」シリーズのディレクターとして知られ、今作のメガホンをとった宇田鋼之介監督が、作品に込めた思いを語った。
小学6年生のユウタは、夏休みに亡き父との思い出の山奥へ出かける。突然の嵐に襲われ30年以上前の世界にタイムスリップしたユウタは、村で出会った少女さえ子や少年ケンゾーとともに不思議な時間を過ごす。
宇田監督は、映画化にあたり「ストーリーが持つ肌触り感」を出すことにこだわり、柔らかい画風を出す手描きを貫いた。「手触り感は直に手で描かないと表現できない。実は今回、1カットもCGを使っていないんです。ホタルも1個1個アニメーターが点を描き、瑣末(さまつ)な背景でも絵具できちんと描いています」とかつての手法をよみがえらせ、今作を完成させた。
アニメーションの世界に飛び込んだ当時は、「今と違って全部鉛筆で描いていたし、セルロイドに移して裏から1枚1枚塗っていたんです。僕はそこで学んで育っていきました」と懐かしむ。対照的にデジタル技術が発達した現代は、「コンピューターによって絵はキレイになっているんですが、シャープでどこか冷たい感じがするんですよね。曖昧さがあまりない」と指摘し、「昔はファジーな部分が味としてフィルムに映って魅力を振りまいていたんですが、デジタル化になってそういう部分がスポイルされている」と持論を展開した。
今回、宇田監督は「昔のつくり方をもう1回やってみよう」と“原点回帰”をキーワードに映像化を進めたという。「デジタルは0と1しかないけれど、アナログはその間に曖昧さという無限の数字があるんですよ。手描きの絵やCGを使わないという決意が、柔らかいタッチのキャラクターをつくる原動力になっていると思います」と明かした。
今作は手づくり感あふれる映像のなか、子どもたちのたくましさやノスタルジーという要素がちりばめられている。主人公ユウタとさえ子は、最愛の人を亡くした喪失感を抱えていた。しかし、ともに過ごす時間のなかで強さを身につけ、手探りで乗り越えていく。宇田監督は「度合いはそれぞれでも、みんな日常生活をする上で問題を抱えている」と分析し、原作で描かれた“生きるための次への一歩”を今作の軸に据えた。「踏み出すのには心の準備が必要ですが、それでも踏んでいかないと次に行くことができない。ユウタやさえ子やケンゾーの心の動きや成長として、どうやって踏んでいくのかという過程を与えていきました」。
舞台となる1977年当時、宇田監督は主人公ユウタと同じく12歳の少年だった。自らの体験や記憶を織り交ぜながら、自然に囲まれた村の温かさと人々の交流を形にすることで、失われつつある古き良き日本の姿が瑞々しく息づいている。
「今回、キーワードとしてノスタルジーというものがありました。でも77年という年は、いろいろなものが変わっていった微妙な境目の時期なんですよ。この村も夏が終わると消えてしまうように、消えゆくものの儚さというものがあるんです。例えば、田舎はほとんどの道路が砂利かコンクリート舗装だったんです。ところが、このぐらいの年代からどんどんアスファルト舗装が進んでいきました。古き良き時代でありながら、それが日めくりのように消えていった時期でもあるんです」
宇田監督は、同世代の大人に向け「(かつての日本の姿を)子どもたちに伝えていってほしい」という願いと「ノスタルジーを感じてほしい」という思いを込めた。一方で、デジタル作品にしか触れたことのない子どもたちに向け、「僕だけじゃなく業界全体が『こういう作品もあるよ』ということを伝えたがっている気がします」と真しな眼差(まなざ)しをのぞかせた。
「映画って見終わったあとが一番大事だと思うんです」という宇田監督は、「この映画を見終わった後、『お父さんやお母さんたちの時代はあんな感じだった』と親子で会話できたら素敵だな、幸せだなと思います。家でビデオ見るのとは違う楽しさを味わっていただけたら」と笑顔をのぞかせた。