ベルフラワー : インタビュー
エバン・グローデル、火炎放射器の炎で浮かび上がる生々しい精神世界
2011年のサンダンス映画祭は、「ベルフラワー」という青春像に熱狂した。ビースティー・ボーイズの故アダム・ヤウクさんをも魅了した、若き才能エバン・グローデルの長編デビュー作だ。火炎放射器が放つ炎で、愛に溺れ絶望する青年の内面を生々しく映し出す。無一文の生活から一転、来日を果たしたグローデル監督が、今作について語った。(取材・文・写真/編集部)
世界の破滅を願い、火炎放射器や戦闘車の改造に明け暮れる青年、ウッドローとエイデン。映画「マッドマックス2」のカリスマ悪党ヒューマンガスを崇め、世間から隔絶された世界へと心酔していた。やがて、奔放な女性ミリーと恋に落ちたウッドローは、彼女の存在がすべてとなる。しかしミリーの裏切りに直面し、怒り、悲しみ、狂気へと突き進んでいく。
グローデル監督は脚本、主演、劇中に登場するメデューサ号の改造まで手がけ、文字通り20代後半を今作に捧げた。撮影には約3年もの歳月が費やされ、限られた予算のなか、未完成に終わる不安に襲われたこともあったという。しかし、すべてを注いだグローデル監督には、前に進むしか道はなかった。それほどまで、グローデル監督を今作の映像化に駆り立てたものはなんだったのだろうか。
「僕はこの映画がつくりたかった。はじめた時点でお金をすべてつぎ込んでしまって、一文なしの状態で友だちのガレージに住んだりしていた。現実を直視せざるを得ない状況で、あきらめるという選択肢はなかったんだよ。あきらめたら、その時点で人生がめちゃくちゃになってしまうとわかっていたからね。仕事をしているときでも落ち込んでいるときでも、自分がやりたいと思えることがこれしかなかったんだ」
精魂込め手を加えたメデューサ号は、撮影を終えた現在も変わらず相棒だ。「僕が持っている唯一の車だからね。普通に買い物にも行く(笑)。撮影監督のジョエル・ホッジもあの車が大好きで、1週間に1回は仕事場に乗っていっているよ」
グローデル監督と公私をともにするメデューサ号を筆頭に、主人公ウッドローの破壊衝動の象徴として、火炎放射器が住宅街で使用される。危険と隣り合わせの撮影は、正式な許可を得ずに強行した場面もあったそうで「危険が及ぶ状況で撮影する場合は、前もって計画を立て避けるようにしていた。火炎放射器や拳銃をどこに隠すか、警察への対応も常に考えていたよ(笑)。逮捕されると思ったけど、ラッキーなことに誰も逮捕されなかったんだ。クレイジーでしょう?」
笑いながら目を輝かせるグローデル監督は、少年から抜け出せずに大人になったウッドローそのものだ。撮影で使用したカメラにも手を加えており、嬉々として改造したポイントを説明する姿は、世界を破壊するマシーンの改造に没頭する青年の姿と重なる。映像にもこだわり、場面変化を際立たせるために4台のカメラを使用。自らつくり上げた特製カメラは、抽象的かつあいまいな映像で世界と決別したウッドローを映し出し、ストーリーのなかでもリアルから遠い感覚を表現した。
グローデル監督は、かつて体験した失恋の痛手を下敷きに脚本を練り上げ、最愛の恋人を失う痛みを「マッドマックス2」やメデューサ号の暴力的な部分と結び合わせた。「普通の恋愛関係を現実的に表現するのではなく、恋愛関係がもたらす精神的体験をどう表すかにこだわったんだ。彼女にふられたときの最悪な気分は、(『マッドマックス2』の)終末論的感覚と合致するんじゃないかと考えたんだよ」
今作は、冒頭から“世界の終えん”を待ち望む心理が一貫している。世界の光となるべき恋人が登場するものの、裏切りという行為によって破滅を加速させる存在へと変わってしまった。グローデル監督は自ら感じた痛みを物語に昇華することで、幻想的な空気のなかに生々しい血と痛みを吹きこんだ。精神世界を具現化することで、「思い出は美しく、現実は無慈悲だ」と痛烈な叫びをあげている。
「バカげて聞こえるかもしれないけど、この作品は感情的、精神体験的にリアルなんだ。特に映画の前半は、恋愛感情や友人関係など自分がとても深い関係性を持つことができるもの、自分が体験したことと深くつながっている。でも、それをリアルに再現するという感覚でつくっているわけではないんだ」