「オマエなぞ僕らの人生に関わるに値しない」その夜の侍 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
オマエなぞ僕らの人生に関わるに値しない
分厚いレンズのメガネをかけ、頭髪が汗で絡みついた堺雅人が、妻を亡くした喪失感と犯人への恨みを陰に込めた労働者・健一の人物像を作り上げている。
冒頭の落ち着きのない挙動だけで、ただならぬ想いが伝わってくる。
ひき逃げ犯を演じる山田孝之がまたいい。木島はどうしようもなくワルだ。ただ本能のまま、遊び半分で人の命を弄ぶ。殺人行為でさえ、途中で飽きれば、半死半生の人間をほったらかしにするようなヤツだ。
そんな木島と一緒に居たら危険だと分かっていながら、木島のもとを離れられない人間がいる。木島の奔放な生き方に心酔するのか、はたまた逃れれば追ってくるのが怖いのか。まるで悪い新興宗教にでも入信したように、なんでも木島の言いなりだ。
健一が経営する鉄工所は、手元を照らす明かり、淀んだ色彩、モーターの音と油にまみれた床というように町工場の雰囲気がよく出ている。
ただ、一歩外に出るとベタッとした映像で臨場感がない。間延びしたカットが多く、映画的な表現の面白みに欠ける。
場末のスナックやラブホテルのシーンになると、それなりに面白い演出に戻るから不思議だ。
ついに健一と木島が対峙する場面の長回しは悪くないが、けっきょく最後までタイトルが意味するところは分からない。いったい何が“侍”に通じるのだろう?
一騎打ちを前にデリヘル嬢と一夜を過ごそうとするから、ますます“侍”の志から遠のく。
健一が木島に向けて叫ぶ「オマエなんか最初から居なかったんだ」という言葉は、健一が思いの丈を込めた精一杯のパンチだ。〈オマエなぞ僕らの人生に関わるに値しない〉
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