「希望の無い世界、、、それでも…」希望の国 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
希望の無い世界、、、それでも…
Huluで鑑賞。
痛烈な反原発の想いがこめられたヒューマンドラマ。
東日本大震災の数年後と云う設定でしたが、本作で描かれていた内容は3.11における原発事故そのもの。
翻弄されるありふれた一家の姿を通し、日常が破壊され、生活が脅かされることへの怒りに満ちていました。
避難指示が出される中、息子夫婦を退去させ、認知症の妻と共に家に残り、これまで通りの生活を営もうとする老人。
しかし、やがてその暮らしも自治体からの強制退去命令や育てていた牛の殺処分命令により、暗雲がたちこめ始めて…
故・夏八木勲さんの名演に引き込まれました。
放射能に全てを奪われ、愛する者と共に生きていきたいと云う願いさえ、容赦無く踏みにじられてしまう…。老人の怒りと悲しみを見事に演じていて、胸が締めつけられました。
お腹の赤ちゃんを空気中を漂う放射能から守るため、家の窓には目張りを施し換気扇も塞ぎ、外出時は防護服に身を包む母親。それを支える夫もまた、放射能への恐怖を募らせていく…
周囲はその様子を滑稽だと嘲笑い、原発事故当初は放射能への恐怖を感じていたくせに、喉元過ぎればで、事故が起きる前と同様の生活を営む…。果たしてどちらの反応が正常か?
このシーンを観た時、「生きものの記録(黒澤明監督)」と云う映画を思い出しました。背景が違うだけで状況は同じ。この稿を書いている私でさえ、あの時抱いた恐怖を覚えているのに、今では震災発生前と同じように暮らしている…
タイトルは園子温監督からの壮絶な皮肉に思えました。
全く希望を感じられないラストに唖然としました。一縷の望みさえ抱くことの出来ない国、日本―。コロナ禍の今、その姿には一層の拍車が掛かっているような気がしました。
しかし、どんなに残酷な世界でも、命ある限り愛ある限り、生きていかねばならない。一歩一歩、たとえ小さな歩みであっても、進まねばならない。それが人間と云う生き物だから…