「綺羅びやかさの裏でよじれていく綱吉の心」大奥 永遠 右衛門佐・綱吉篇 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
綺羅びやかさの裏でよじれていく綱吉の心
徳川三代将軍・家光の時代、春日局が組織化した〈大奥〉を男女逆転にした発想と、実在した人物をアレンジする上手さは相変わらずだ。
前作の八代将軍・吉宗篇は質素倹約の時代だが、今作は好景気の元禄期にあたり、御鈴廊下の綺羅びやかさがまるで違う。打掛も金糸・銀糸を使った刺繍が施され豪華だ。菅野美穂の立ち居振る舞いがぴしっと決まって、武家の棟梁たる風格と色気を併せ持つ。桂昌院の袈裟までお色直しがある。演じる西田敏行のアドリブも楽しい。
「生類憐れみの令」など悪政で民衆を苦しめたとされる五代将軍・綱吉だが、偏った寵愛といくつかの不運による政道の歪みを、この男女逆転の「大奥」では、真の愛に飢えた女の哀しさとして描いている。
世継ぎはもちろん、徳川家盤石のために徳川の血を引く子を多く生むことが使命の女将軍。政道よりも子作りを求められる。家畜のごとく男と褥(しとね)を共にしなければならない将軍職の立場に辛いものを感じる。人を愛する自由がない者に、民を愛せといっても無理な話だ。
綺羅びやかさの裏で綱吉の心がよじれていく様子を、堺雅人と菅野美穂が堂に入った演技で物語る。
TV版も含め全作で流れる村松崇継によるメイン・テーマがすっかりシリーズの屋台骨になった。とくに御鈴廊下によく合うメロディとアレンジで、耳に心地よい余韻を残す。
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