「宇宙空間の描写は圧巻」ゼロ・グラビティ tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙空間の描写は圧巻
3Dの吹き替え版で鑑賞。宇宙空間(衛星軌道)における無重力状態での災害描写は秀逸で、完全に従来の宇宙映画とは一線を画している。この作品は是非3Dで観ることをお勧めしたい。
ただ作品全体としては気になる点もある。まずこの災害のきっかけであるロシアのスパイ衛星の破壊について、何らかの事情で人為的に爆破され、更にその破片が他の人工衛星を次々に破壊して軌道上がデブリだらけになるというのは、あまりに安易で乱暴な展開ではないだろうか。別にミサイルを乱射している訳ではなく、デブリが衝突したとしても基本は貫通または衝撃を与えるだけで爆発はしない筈なので、元の位置から大きく移動する可能性は低いだろう。もし爆発または大規模な破壊を起こしたとしても、その時は軌道が変わるか破片が四方八方へ(慣性に従って)飛び散って行くと思うので、多くのデブリがスペースシャトルやISS、果ては中国の宇宙ステーションと同じ軌道を平行に飛び続けることは考えにくいのではないか。
谷甲州のSF小説に出てくる宇宙魚雷(爆雷)は、敵艦の近くで自らが爆発して多くのデブリを形成し、その爆散円(球)に敵艦を巻き込むものだが、この作品のデブリはそれ以上に破壊力がありすぎる。
主演はサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーであるが、実際にはほとんどサンドラ・ブロックの独り舞台で、ジョージ・クルーニーは大部分宇宙服姿でしか登場しない。ライアンを励ましに現れる幻影(夢)は、ジョージの素顔を見せるためにとって付けたようで、何とも不自然に思える。
ISSの火災を消そうと試み、それが無理と判断してソユーズに逃げ込む時に、何故消火器を持ち込むのか不思議に思ったが、中国の宇宙ステーションに接近する時の姿勢制御に使うのを見て納得した(ISS内で消火器を噴射した時にその反動で飛ばされそうになった描写が伏線になっている)。
最後は中国の宇宙船のカプセルで無事帰還するのだが、大気圏に進入(突入)する時の角度は厳密に設定しなければ失敗すると思うのだが、特に確認や修正したシーンもないのも疑問だ。もし事前に中国人が宇宙ステーションの進入角度を設定していたとしたら、地上への被害を最小限にするために、できるだけ燃え尽きるようにしていた筈だ。
私の知識不足で誤解があるのかもしれないが、折角リアルな宇宙空間の表現に成功しているのだから、その他の細かい点についてももう少し丁寧な描写(または説明)が欲しかったと思う。