「鑑賞者への想いやりに満ちた傑作」シン・エヴァンゲリオン劇場版 88742896さんの映画レビュー(感想・評価)
鑑賞者への想いやりに満ちた傑作
20年という歳月の中で、エヴァンゲリオンという作品に触れ、そこに依存の様なネガティブなもの含め、様々な思い入れを持つ人たちのために、エヴァンゲリオンが前向きな方向に開けながら終わり、乗り越えるよう導く、慈愛に満ちた作品だった。
主な依存の対象となる、ひとりひとりのキャラクターについて、丁寧に蟠りをほどき、説明し、流れるべき方向へ解決させていく。
特に、碇ゲンドウについてのパートにおいて、シンジとの関係性の整理に至った事で、このエヴァシリーズにおける完全な物語的帰結に至ったと個人的に思う。アニメシリーズ当時10代だった自分たちは、大人になり、親になった。当時、恐れ、理解不能、克服不能の象徴的存在であったゲンドウが、今作において、今、図らずも父となった自分が、子との関係性に迷い不安を持つひとりの親として、男として共感の念を抱いたのに、自らに驚いた。
世界設定に関しても合理的な展開、結末を見せつつ、同時にそれが虚構であるという事についてもキャラクターに言及させている。それは本作が虚構のアニメ作品であるという2重構造と取りつつ、観客に対してある意味で、ややこしい、そして面白い、世界設定を詳細に理解出来なくても、あなたはこの物語を消化出来ますよ、と投げかけてくる様である。だって虚構だから面白いんだから。
終盤にかけての、アニメのリアリティにメタ的な揺さぶりをかける映像表現的な実験には、単なる技術的な挑戦ではない、本作のメッセージ性と連動した意味付けがなされ、前向きなラストへむけた「気付き」を観客に促している。
基本的に、庵野秀明監督が訴えている事はアニメシリーズの時から一貫して変わっていない。今作もある意味同じ事を言っている。しかし、それを伝える為の方法が優しく、慈愛に満ちたものになっている。監督自身にとってのこの20年の歳月や出会いも影響しているのだろうか。スタッフを含め多くの制作に関わる人たちの優しさが本作から感じられた。
ありがとう、さようなら。エヴァンゲリオン。