「桐島、10年後が見たいってよ。」桐島、部活やめるってよ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
桐島、10年後が見たいってよ。
校内一の話題保持者、桐島がとある金曜日にバレー部を辞めた。
…それがどうした?と思うのが現在の自分で、
それは事件だね~!?と取り合えず話題を振るのが当時の自分。
これは、そんな区分けをしながら観てしまう作品。
巧いと思うのは、過去も現在もそうは変わっていない狭い世界で
(一学校の一校内っていう)
さらには部活動という、帰宅部にとってなんの価値も見出せない、
誰が偉くて誰が下等という、謎の優劣がはびこる当時の世界観。
それが全てだった人ほど、今作にはグッとくるんじゃないだろうか。
あーいたいた!うん、あったあった!といちいち頷きたくなるほど
登場人物達の描き分けが巧い。
まったく姿を見せない桐島が相当デキる奴なのは言うまでもない、
でも行動そのものはまぁ褒められたもんじゃないなぁ、迷惑かけて。
ただ騒いでいる連中はいいとしても、仲間や友人にもあれでいいの?
本当に優れた奴は他人への配慮も忘れないもんだよ。
取り残された太賀を見てたら、可哀想で涙が出そうになったぞ。
(まぁ、結局は彼もあれで良かったんだけどね)
もちろんまだ学生だから、そう完璧人間に描かれないのもまた然り。
悩みに悩んで出した結論なのかもしれない。そんな葛藤が
描かれずして妄想できるところも、また演出方法の妙技である。
…結局のところ、彼らは桐島が部活を辞めようが続けようが、
自分の進路は自分で決めねばならないし、彼の抜けた穴は、自分達で
埋めるしかないわけだ。頑張れ!学生諸君!…なんて応援したりして。
青くて若くて初々しいとは(懐かしすぎて)こんなに躍動感に満ちている。
多くの不満も情熱も各々が抱える問題と照らし合わされ、其々の立場、
進むべき方向を示唆している。今それが当たり前のように見えてるのは、
下らない問題をすでに下らないと思える年代だからで、自分が懸命に
生きていた頃などは思いもしなかったことだ。今思えば…バカみたいな
問題に振り回され、バカみたいな相談に乗り、バカみたいに笑いこけて、
バカみたいに腹を立てていたあの頃が懐かしい。今の若い学生達にも
そんな感情が嬉々として残っているなら、それこそ素晴らしいことなのだ。
たかが一人の人気者に振り回されてしまう、
認識すらしていない連帯感が自分と周囲の距離を測る絶好のタイミング。
様々な分野の人間を見つめた菊池が、最後に気付くものは何だったか。
映画部の武ちゃん(武文)、現在と未来を見渡す説得力ある解説がいい。
自分の立場と実情を踏まえた見解は素晴らしかったけど、
あの彼とて社会に出ればまた揉まれ、更に辛酸を舐める時がやってくる。
前田(映画部)や高橋(野球部)のように叶わない夢を語るのもまた然り。
モノになるかどうかなんて問題じゃない彼らには、ロマンが満ち溢れてる。
チャラチャラと桐島にくっ付いている連中と、彼らから最も離れた連中の
危機迫るラストの食い荒らし方が、まるで意味を持たない鬩ぎ合いである
ことが最大の救いで、須く終焉を迎えるところも夕暮れと合わせて美しい。
自分にとってまったく興味のない分野にいる人間が放った一言に、
人生最大のショックを受けてしまった経験って、過去にないだろうか。
観終えて面白い(面白かった)と思えるのは、
今作で描かれていたように、学生時代に花形(古い?)だった人気者が、
社会に出て、何年もしてから偶然出逢った時、「へっ?マジ?」と思うくらい
パッとしなくなっているという「あのヒトは今」な実態と、
名前すら覚えていなかったような地味な同級生が、一躍有名人に躍り出て
いる仮想世界のような現実。人生、何があるかなんて未だに分からない。
桐島という象徴を自分から切り離して、あぁそんな奴もいたよね。と、
自分自身に没頭できる生き方もいいし、アイツがいたからオレも頑張れたと、
思いきり取り込んで妄想に浸れる人生もアリかもしれない。
あらゆる可能性と卑屈な精神性、伸びやかな思考に私利私欲を兼ね備え、
行ったり来たりの人生を苦しみ楽しみ生きて欲しい、十代に捧げる作品だ。
(しかしオンナって怖いでしょう?愛ちゃん寿々花ちゃん上手すぎるわねぇ)