「青春はヒエラルキーと共に」桐島、部活やめるってよ しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
青春はヒエラルキーと共に
DVDで鑑賞。
原作は既読。
原作を読んでとても感動しました。心情描写の繊細さ。視点が変わることで同じ場面でも違って来る意味合いに心を鷲掴みにされました。今までに無かった感じの物語だな、と…
ヒエラルキーの上位にいたであろう作者が(私の勝手な想像です)、なんでここまでイケてないグループの人間の気持ちが分かるんだろう、とめちゃくちゃ感心しました(笑)。
それはさておき、本作では原作のエッセンスを巧みに踏襲しつつ、最後には映画的なカタルシスを存分に堪能できる、珍しい形の青春群像劇に仕上がっているなと思いました。
それぞれの視点から校内ヒエラルキーの存在がつまびらかにされ、誰もが共感出来るはずの人間ドラマが展開されていました。身に覚えのある感情が湧き上がって来ました。
努力した者を嘲笑う風潮は私が学生の頃にもありました。心の中では反発していても大勢に従わざるを得なくさせる、見えない圧力。従わなければ、過酷な排斥を受けてしまう。
思い返せば、なんとえげつない環境だったのだろうと身が縮む想いです。学校が社会の全てだっただけに、如何にサバイブするかと云うのが毎日の課題だったような気がします。
人気者でバレー部のキャプテン・桐島が突然部活を辞め、学校を休んだことから始まる校内ヒエラルキーの崩壊。ひとつの前提が崩れただけで全てが一変するとは、校内ヒエラルキーとは砂の城みたいな脆いものだったんだな、と…
大混乱に見舞われる学校内。些細なことのようですが、当事者たちにとっては一大事。この世の終わりレベルの狂騒が始まりました。じわじわ高まっていく展開が秀逸でした。
なんの情報も無く、交際相手でさえ桐島とは連絡がつかない始末。そんな彼女も校内一のかわいさで、その取り巻きもレベルが高いことこの上無し。取り巻きたちは桐島の彼女を庇う素振りを見せながらも、それは上辺だけの友達ごっこ。
いつ取り巻きからあぶれてしまうかと戦々恐々で、危ういパワーゲームを繰り広げていました。そう言えば私の周りにもそんな感じの娘たちいました。やっぱ怖いぜ、女子…
一方バレー部では、リベロだった桐島の代わりに控え選手がスタメン入り。こちらもこちらで困惑しているだろうし、メンバー間の不満が爆発し、ここでも感情が入り乱れる…
そんなことは眼中無しで撮影に没頭するヒエラルキー底辺な映画部の面々。楽しく映画製作に勤しむと云うわけには行かず、彼らの日常も狂騒の中に取り込まれると云う不条理。
様々な群像が映し出され、感情と思惑が交錯する中、全てが収斂する圧巻のクライマックスへとなだれ込んでいきました。
それまで別々の視点で描かれていた登場人物たちが屋上へ一同に会して、それぞれの想いが溢れ出し、濁流となって爆発する壮大なフィナーレのカタルシスに酔い痴れました。
ヒエラルキーが一瞬で逆転し、襲い掛かるゾンビたち。カメラを回す神木隆之介。学生時代の想い出が蘇り、ヒエラルキー上位の生徒を懲らしめる様に溜飲の下がる想いでした。
想いの大洪水が去った後、静かにカメラを拾った東出昌大と神木隆之介の会話を通して、ヒエラルキーと云う虚飾の壁をぶち破る革命が起こったようで、思わず涙が出ました。
※修正(2024/05/12)
> ヒエラルキーという虚飾の壁をぶち破る革命が起こったようで
上手い表現ですねー。この映画の「肝」ですよね。「こういうの、あるかもしれないけれど、絶対的じゃないし、ましてや最上位の価値観じゃないぞ」という思いを、文中や作中の言葉で決して語ることなく、しかし確実に俺たちの心に生まれ出させる。まさに小説や映画の最高の瞬間ですよね!