「堂々とやり切る『誰得』」桐島、部活やめるってよ いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
堂々とやり切る『誰得』
吉田大八監督の出世作を今更ながらライムスター宇多丸のラジオで気に掛かって鑑賞してみた。吉田監督の作品はその後何作か鑑賞しているが、良いにつけ悪いにつけ、今作が一番印象に残る作品として印象に残ってしまった。確かに今作、未来のスター(今からだと過去になってしまうが)が出演目白押しである。タイムパラドックス的な観方かも知れないが、その華やかさが作品の質を昇華させているのが凄いと思う。原石というのは始めから輝いているものであると感じさせられる。ただ、そんな原石だから高校生にはみえない姿の仕上がりが鼻につくにも狙いなのだろう(山本美月なんて、そのままモデルでもやれる程のスタイル)
作品内容は表題の通り、はっきりいって胸クソ映画である。自分が学生時代には有ったかどうかも分からない『校内カースト』と呼ばれるヒエラルキーをベースに、その頂点である男子高生が部活を辞めるという話に右往左往する周りの友人達、またその友人達に関係するクラスメートの引っ張られ様を、同時間多軸的な撮影演出で構成されている。そんな群像劇スタイルでの展開を最後にゾンビ撮影ドキュメンタリータッチ風で行なうオチで〆る運びにする。ラストのカースト上位と下位のささやかな邂逅はハッピーエンドを予兆させる雰囲気にさせるのだが、それよりも学生時代の酸っぱい思いをこれでもかとリアリティに表現していくシーンの数々に気持ちを抉られる。それぞれの登場人物がきちんとキャラを演じ、そのキャラ同士の化学反応をこんな狭い(とはいっても古い校舎故、まるで迷路みたいな造り)ビーカーで暴発させるストーリーは、その濃厚さ故、かなり圧の高い感情の機微である。その最大のアイデアが原作通り、題名の『桐島』自体が一切作品に出てこない(飛び降りたのも白昼夢)というプロットだ。そのモヤモヤ感が、益々周りの人を不穏に走らせ、そしてそもそも持っている日々の不安感を自己増殖させ、それが非現実性へと突き進むアプローチに唯々、感嘆するしかない。この手の作家性の強い作品が日本で描かれたことが奇跡なのではないだろうかと感じる。
何度も言うが、自分にとってはストーリー自体は『胸くそ』悪い映画なのだけどね。だからこそ自分の高校時代に否応なしにタイムスリップさせられ、そしてまたもや苦くて酸っぱい味が口の中に充満してきてしまう・・・