「子育て繁盛記。」おおかみこどもの雨と雪 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
子育て繁盛記。
感想を書こうとして、思い出していると涙が溢れてくる。
子育ての醍醐味をたった13年の営みで見せるだけだが、
子供たちの成長が早い(巣立ち?)せいか、妙に寂しい。
いや、寂しくても、実は嬉しい。花の笑顔が証明している。
おおかみこどもとはどういう意味なのかと思ったら、
オオカミ男と人間の間に生まれた子供たちのことだった。
まずアニメだということを念頭に置き、ファンタジーだと
思って観てみたが、これは現代を生きる母子の話だと思う。
子供たちが成長するにつれ、野生と人間との自我が発達し、
そこに戸惑う3人が映るが、これは人間の子育てでも同じ。
おおかみだろうと、人間だろうと、子供はどんどん成長し、
あっという間に親を超えて離れてしまうものである。
最も可愛かったあの時、このクソガキが!と思ったあの時、
自らの子育てを振り返っては、何度も頷いて何度も泣いた。
大好きな相手の子供を、どうしても産みたかったのだろう。
自らがオオカミ男に恋をして、その正体を知っても怯まない、
この花という女性の強さにまず驚いた。女の強さって、
実際こういうところに顕れるものよねぇ。見た目じゃなくて^^;
まぁ花にしてみれば、好きになった人がオオカミ男でした。
そういう説明でしかないだろう。雪のナレーション通りだ。
このような境遇に於かれ、その後母親は全力で子供を守り
育てていかなければならないが、現代の閉鎖的な子育てと
ある意味似通ったシチュエーションにしたのが面白かった。
花は閉鎖的な都会から拓かれた田舎へ引っ越しを決める。
そこには、子供達を他人の目から引き離す為の意味合いと、
おおかみになっても飛び回れる環境を作る目的があった。
そもそも大学生からいきなり母親になったうら若き女子が、
二人の子供(しかも人狼よ)を育て、田舎で自給自足だなんて
どう考えてもあり得ないだろうし、まずムリな話である。
まぁアニメだからムリを承知で^^;観ることになるのだが、
ここで花はイヤというくらい、田舎からの洗礼を受ける。
意地悪ではない、むしろありがた迷惑なほどお節介をする
ご近所さんとお付き合いをしていくことになるのである。
これが彼らにどういう影響をもたらすか。人目に触れずに
育てることが、果たして子供達の幸せに繋がるのだろうか。
助けを求めずに育てるから、育児ノイローゼなんてものが
始まるのだ。子育てはすべてひとりでできるもんじゃない。
他人の好意には大いに甘え、そこから子供達のこれからを
勉強させてもらうのが一番。先人達は何しろ知識が豊富(爆)
結果(もちろん子供達の性格その他もあるにせよ)
花をはじめ、3人は自分自身でどう生きるかを選択する。
家族以外の人間(あるいは動物)と関わることで、他者との
共存を学び、其々社会へと出ていく下準備が整うのである。
あんなに小さくて可愛かった子供達が、ずいぶんと成長し、
どう生きるかで取っ組み合いのケンカを始めた時、
(もちろん花は驚いただろうけど)こうなることは分かっていた
はずである。あのおてんばな雪は、大人びた女の子に成長し、
(学校に行きたくて花に言う「うまくやるもん!」が可愛かった)
臆病だった雨は、口数の少ない決意を秘めた男の子になる。
親が、そうしなさい。こうなりなさい。なんて言わなくっても、
子供はなるべき姿に成長していく^^;これはどうしようもない。
人間の子供でもちょうど変化が訪れるこの年頃を、
きめ細やかな表情でよく描いた。この監督はこういうのが巧い。
だから個人的には終始、これはおおかみか人間かの話でなく、
親がどう生きてきて、それを子供がどう受け継いだか、の話だ
とずっと思っていた。冒頭から流れる雪のナレーションには
親を怨むような空気などどこにも感じられない。
オオカミ男の父親と恋に落ちなければ、引き継がなかったはずの
自分たちの運命を、やれ親が勝手だの悪いのと、そんなことは
まったく言ってない。母親がそうしたように、雪も雨も自分の
運命をしっかりと受け止め、生きていく決心をしたことに拍手を
贈りたい。自分の運命は自分で切り拓いていくものである。
親なんて本当にそこまでの、ほんの手助けができるにすぎない。
それをあたかも自分の持ち物のように占有し、年端がいっても
親離れができない、そんな子供に育ててしまうのは親の責任だ。
反抗期のない子供を素直でいい子だ。なんて勘違いも甚だしい。
反抗を許さず自立の芽を摘んでいるのは親の在り方に他ならない。
そして子供は、そんな親の生き様をどんな形にせよ身につける。
子供達がまっすぐ自立できる子育てができればと、
今さらながら(遅い!)思っているオバさんもここにいたりする^^;
花の姿勢を見て、とても勉強になった部分がある。
それが正解とはいわないが、強く生きて欲しい願いは一緒なのだ。
(宮崎あおい、ピタリと声を合わせたのはさすが。声優もやれるね)