「娘が語る母親の半生」おおかみこどもの雨と雪 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
娘が語る母親の半生
「母親の人生」を、娘が語ります。
子供の頃からの記憶を遠く辿りながら、ナレーションし、述懐をしている。
母親の死後なのだろうか?思い出語りで、とつとつと、娘は母を語るのだ。
(このあたり「20センチュリーウーマン」や「我が母の記」などを思い出してしまう)。
「父親の不在」。
そして
「シングルマザーの孤軍奮闘」。
これが脚本の隠れ主題にして骨格。
お父さんの名前もよく覚えてはいない娘だ。
(劇中、男の名前も不明のままで=どこにでもある“父親のいない家庭”の設定)。
男親に可愛がってもらった経験も、それが自分の記憶なのか、後々母親から聞いた話だったのか、もうおぼろ気なのだ。真実は霧の彼方なのだ。
父親がいなくなってしまった理由など、子供たちはそう簡単には母親から聞き出せないものと思う。
なんとも詰まらない都会のコンクリートの川に落ちて、父だった人は死に、ゴミ収集車に投げ込まれて、どこかに消えてしまった。
姓名不肖、自称会社員の男の、行方不明のあのシーンは、
あれは僕そっくりだと思った。
男手なしに子育てしたわが元妻は、大変だったろうと最近とみに想う。
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人もオオカミも、子育ては難しい。
そして子別れは辛い。
日を追うごとに元夫に似てきてしまう男児=雨と、
同性として支え合い、話し相手となり頼りになる女児=雪と、
・・この二人の子供たちを抱えて、五里霧中で生きたシングルマザーの物語なのでした。
自然の描写が美しいだけにね、僕にとっては、家族の危うさや大人の弱さがかえって浮き彫りに見えてくる
ちょっとイタい作品だったかな。
でも絵がきれいなのは日本のアニメーションの実力の高さ。
仔オオカミの目線で、地面すれすれに走るあの光景とスピード感は、素晴らしかったなぁ。
山での生を選び、母親と訣別して出ていく親別れ・子別れの儀式も。
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そういえば、
NHKのラジオ深夜便には「母を語る」という長寿コーナーがある。でも
「父を語る」という番組はない。
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僕は毎年クリスマスに、
離婚したあと離れて暮らすわが娘に《オオカミの出てくる映画》のDVDをプレゼントしている。
娘は美大で、オオカミの彫刻をずっと6年間やっているものだから。
昨年はフランス映画「クリスマス・ツリー」だった。
本作品のDVDも購入済みだ。
“いなくなった父オオカミ”からのこんな贈り物を、彼女はどう受け取るだろうか。
来春には美大を卒業。
僕からの仕送りも終わる。
父母から離れて独り立ちをする季節だ。
辛い別れを体験したあの子にも、この映画、観せてやりたい。
お母さんが死んでしまった甥っ子にも送ってやろう。
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雨上がりの駐車場での別れ ―
「行ってしまうの?」
「守ってあげたかった」
「何もしてあげられなかった」
「元気で・・」
「しっかり生きて!!!」
朝の光が全天を満たす。
声優・宮﨑あおいの、
あの声。
超ド級の迫力。
家族が解散する瞬間の餞(はなむけ)の叫び。
親と子の遠吠え。
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コメントありがとうございます。
短編小説のようなきりんさんのレビューですね。
軽々しくコメントも出来ないのですが、
このアニメ映画が、きりんさんの心の深い所へ届いて、
書かれたのですね。
どのレビューも渾身のレビューで傷だらけの自己が反映されて、
痛いようです。
(きりんさんは文学としてレビューを書かれていますね。
(感動します。文学作品として、)
「テルマエロマエ」に楽しいコメントと共感ありがとうございます。
私はお風呂は自宅のお風呂が一番好き・・・という、それも15分位しか掛かりません)
山梨県や岐阜県の秘湯でしょうか?
凄い贅沢なお風呂ですね。
行動範囲が広くて羨ましいです。
北海道は半年は雪に埋もれています。
シティホテルに泊まる位が娯楽ですよ。
秘湯のお湯を想像してます。
ありがとうございました。
きりんさん
共感&コメントありがとうございます。
きりんさんの美しく深いレビューにいつも感銘を受けている多くの中の1人です。
ここは色々なご意見満載でためになります(?)
何にしろ様々な感じ方を色々な方がすること、これこそが映画の醍醐味だと思う今日この頃です。