「WHAT A WONDERFUL WORLD!」ふがいない僕は空を見た Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
WHAT A WONDERFUL WORLD!
人が己の意志の力で行動を選択して生きていくその人生の過程で遭遇する出来事を運命と呼ぶのなら、その人が生れ落ちる、この世に誕生してくる家庭環境や、国や時代も、肉体的条件などを含めたその総ての中で、自己の選択が不可能な出来事や、物事を宿命と呼んだら良いのだろうか?
よく物の例えに、人は皆平等だと言われるけれども、人生で同じ環境と同じ運命を持った人間など存在しない事を思えば、人生に平等な事などどこに有ると言うのだろうか?
全く公平な事など有りはしない、不公平の塊で人生を始め、その不公平な生き難い人生を全うして行かなくてはならないのが人生なのだよな~とこの作品を観ていて、この不公平感を思う時、果たして人は本当に自分自身の選択の意志行動に根ざして生きているのだろうか?と終始答えの出る事の無い疑問の渦の中にスッカリ巻き込まれながら本作を観ていた。
と言う訳で、さすがは、2011年本屋大賞2位、そして山本周五郎賞も受賞した同名のこの原作はロングベストセラーに輝いていたが、なるほど心を揺さぶられる良い作品だったと言える。
映画の神様であるあのチャーリーチャップリンが、「人生とはクローズアップで観れば悲劇だが、ロングで観ると、それは喜劇だ」と名言を残しているけれども、さすがはチャップリンだ。彼の言葉は、この作品の登場人物のその総ての人間達の生き様にも当てはまる気がした。登場人物の皆が、それはまるで喜劇の様に、信じられない程に、生きるのが不器用な人間の物語が繊細に紡ぎ出されてゆくのだ。
ノックアウトをくらったような気分で映画を観終わったが、しかし同時に、気持の良い余韻を私の心に運んで来てくれる秀作だった。
主人公の卓巳を演じた永山君は瑛太の弟だったのだね、観ていてあまり似ている感じがしなかったけれども、ナイーブな年頃の卓巳を熱演して魅せてくれたのはとても有り難い本作の数ある収穫の中の1つだったが、彼の母親を原田美枝子が演じているが、この彼女のキャラが、ベタベタとしていなくて、さっぱりしていて、実に良いのだ。女親でも有るけれども、助産院を営みながら女手一つで、卓巳を育て上げる父の役目も併せ持つのだ。
そして、卓巳に、「あんたも、大切な命の1つなんだから、生きていてよ!」とだけ言い残し、後は全く説教の1つも無いのだが、その代わり男子高校生の息子に、自分の助産婦の仕事を出来る範囲で助手として使う事で、出産現場に立ち会わせているのだ。これほどに素晴らしい教育が他に有るのだろうか?そして卓巳と杏のコスプレエッチ写真や動画が流れた時に母親の助産院で働いている助手が「バカな恋愛をした事の無い奴なんて、この世の中に居るんですかね?」と言う場面が素晴らしいのだ。このセリフは、恋愛と言う言葉から、他者には理解出来ない、矛盾した愚かな行動と言うセリフに置き換えられる様に思うのだ。人がこの世で生きる事は本当に素晴らしく、輝かしい意味の有る事だと感動を新たにする!生きている誰もが、出産と言う苦労の末にこの世に誕生させて貰えるのだから、これを奇跡と呼ばずに何と呼べるのか?そしてその奇跡の力を信じて希望を持ち、空を見上げて生きて行きたいものだ。ふがいない奴などは、この世の中に本来は存在しないのだ。
みんな懸命に生きているのだ!例え愚かに人の目には映っていたとしても!