「説明は除き、全てを映像で語ろうとしている、様々な愛のかたちを描いた映画?」裏切りのサーカス Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
説明は除き、全てを映像で語ろうとしている、様々な愛のかたちを描いた映画?
スウェーデン出身のトーマス・アルフレッドソン監督による2011年製作のフランス・イギリス・ドイツ合作映画。原題:Tinker Tailor Soldier Spy、配給:ギャガ
有名らしいが、ジョン・ル・カレの原作は読んでおらず。
時間系列と登場人物、種々のエピソードが入り乱れて分かりにくく、観客の観察力・推理力に挑戦する様な映画との印象。無駄な説明は省き映像で人物像を語らせ、細部まできめ細かく作り込まれた映画で、随分とできる脚本及び監督とは思った。
最初のタイトルバックに重ねる映像、更に住まいやルーチン行動も示す一連の映像が随分と格好が良い。主人公ゲイリー・オールドマン演ずるスマイリーの立場や状況、更に性格まで、上官ジョン・ハートへの追随行動、そしてドアに挟む木片や郵便物の仕分け等で、見事に映像により語らせている。退官後、眼鏡フレームの色を変えるのも、観客に時間系列を明示する意味で上手い。
意味ありげに映す絵は、後に裏切り者コリン・ファース(「英国王のスピーチ」でアカデミー賞)がスマイリー妻にと持ち込んだもので有ることが明かされる。出ていった妻を深く愛しているせいか、その絵を捨てないでいるスマイリー。職員パーティーでスマイリー妻を誘惑していたコリン・ファースと、それに気づかないスマイリー。
両刀使い?のコリン・ファースはハンガリーで撃たれる工作員マーク・ストロングにもパーティーで色目を送っていた。解雇された女性職員キャシー・バークが持ち出す写真が示す、長い二人の関係性。スマイリーのために情報取るベネディクト・カンバーバッチも男性の愛人がいて、同性愛がやけに目に付く。諜報組織には多いのだろうか?
一方、イスタンブールに派遣されたハンサムなトム・ハーディは美しいソ連工作員妻スベトラーナ•コドチェンコワに恋し、彼女の西側脱出希望を成功させようとする。組織内上層部にスパイがいることを愚かにも本部に連絡し、必然的にソ連工作員から攻撃を受ける。ハーディは知らないが、美しい彼女が無惨に呆気なく撃ち殺される映像を観客は見せられる。
スマイリーは死後の住居訪問で上官ジョン・ハートにスパイである嫌疑持たれていたことを知り愕然としていたが、部下として動いてくれているカンバーバッチにも重要な情報は伝えていない。車内に入り込んだハチを慌てず冷静に窓を開けて外に出て出す姿やキャシー・バークに高級酒を土産に訪問し欲しい情報を得ること等も含め、諜報員としての戦略的資質をうまく表現。
スマイリーは、かつて愛妻からのプレゼントであるライターを、寝返りを促していたソ連諜報員カーラに渡したらしい。彼は今や敵側の長となリ、ハンガリーでの待ち伏せの指揮を取っていたことが、そのライターを映す映像で示される。スマイリーとカーラは敵同士であるが、何処かお互い恋愛をしている様な関係性が醸し出されるのが何とも不思議。
ラスト、コリン・ハートを撃ち殺すマーク・ストロングは深い愛の故にも思えた。スパイ映画の外形ながら、本当のところは、一方的な愛、同性愛に異性愛、更に宿命のライバル同士の愛と、様々な愛のかたちをこの映画は描こうしている様に思えた。
製作ティム・ビーバン、 エリック・フェルナー、 ロビン・スロボ、製作総指揮ジョン・ル・カレ、 ピーター・モーガン、 ダグラス・アーバン、スキー デブラ・ヘイワード ライザ・チェイシン 、オリビエ・クールソン、 ロン・ハルパーン。
原作ジョン・ル・カレ「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」、脚本ピーター・ストローハン、 ブリジット・オコナー、撮影ホイテ・バン・ホイテマ、美術マリア・ジャーコビク、編集ディノ・ヨンサーテル、音楽アルベルト・イグレシアス
出演ゲイリー・オールドマン(ジョージ・スマイリー)、キャシー・バーク(コニー・サックス)、ベネディクト・カンバーバッチ(ピーター・ギラム: スマイリーの下で働く)、コリン・ファース(ビル・ヘイドン(テイラー))、スティーブン・グレアム、トム・ハーディ(リッキー・ター、「ダークナイト ライジング」のべイン役等)、キアラン・ハインズ(ロイ・ブランド(ソルジャー))、ジョン・ハート(コントロール)、トビー・ジョーンズ(パーシー・アレリン(ティンカー))、デビッド・デンシック(トビー・エスタヘイス(プアマン))、サイモン・マクバーニー(レイコン次官)、マーク・ストロング(ジム・プリドー: ハンガリーで撃たれる)、スベトラーナ・コドチェンコワ(イリーナ: 敵側工作員妻)。