終の信託のレビュー・感想・評価
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医者と患者の関係
森田監督は尊厳死、そして日本の検察制度をもテーマにしてると感じた。ラストのそもそも診断が明らかに間違っているというのが腑に落ちなかった。それにしても検察官役大沢たかおの演技は憎らしい。わざわざ呼び出しておいて待たせるなんてことを本当にするのだろうか。追い詰めていく演技はうまい。医者と患者の仲が良過ぎるほど、患者にとっては最高だが、医者にとっては事故、事件の元だということになる。自分のことをここ迄考え、最期に泣いてくれる医者はいるだろうか。家族より先に抱きしめ、泣いてしまうのはちょっといただけないと思ったが。やはり、尊厳死には証拠となる本人の意思が証明できるもの、そして家族の承諾書あって、初めて成立するもの。そういう場合ばかりでないのが今回起きてしまったことなのだが、やはり人間の死を扱うだけに、そこは慎重を期して掛からねばならなかった。全編通して草刈民代が好演。
面白かった
しんどくて退屈な話かと構えていたら、展開が面白くてぐいぐい引き込まれた。役所広司の家族がちょっとひどかった。特に長男。
20年くらい前なので今とはちょっと医療の制度が違うかもしれない。尊厳死に熟年男女の熱愛が絡んで話が複雑になっていた。検事が、最初から答えありきで質問して追い込んで行くのがいやらしい。納得いかなかったら絶対にサインしたらダメだ。なぜ弁護士に依頼しなかったのだろうか、ちょっと変だと思ったら弁護士を頼みたいと主張すればよかったのではないだろうか。
原作未読
法律上の理屈では、現実の課題は何ら解決されないという事がよくわかる映画。
死を受け入れるには、遺される者が納得できる物語を必要とする。前半から中盤にかけて、役所広司の患者のひととなりや何を考えているかを丁寧に伝えている。終盤に物語のキーとなる日記も、実務処理に長けていて、深い考えを持った人物として描くためのアイテムとして効いている。
それらを共有した観客は、主人公の医師の判断をおそらく支持するだろう。本来なら、役所広司の患者は、家族にきちんと自分の意思を伝えるべきなのだろうが、それも期待できないこともきちんと描いている(家族にコミュニケーションは成り立っていない)。
行きたかった旅行も果たし、家族に負担をかけることに堪えられない彼にはもう人生に希望はないのだ。
その一方で、本当に彼が回復不能だったのかは、疑問が残るようにも描かれている。確かに医師が集えば、生命の尊重に傾くものなんだろうが、本来はあらゆる観点から議論しつくした上での結論を導くべきなのだろう。主人公は、患者の私生活に思い入れが過ぎたのかもしれない。それに至るには理由があるから、その哀切が心を打つ。
そういったまとめきらない前提を持った「事件」を処理するために訴訟がある。問題を解決するためには、訴訟で明らかになった事実を現実にコネクトしなければならないと想う。良い映画です。
意識がなくなっても、子守唄を歌って欲しいんです
映画「終の信託」(周防正行監督)から。
役所広司さんが演じる「重度の喘息患者の江木」さんが、
近づいた死に対して、草刈民代さん演じる担当医師の折井先生に
切実にお願いするシーンがある。
「人間が死ぬ時、まずダメになるのは、視覚だそうだそうです。
ものが言えなくなっても、見えなくなっても、
声だけは聞こえているとか・・。僕の意識が完全になくなるまで、
先生、言葉を掛けていただけないでしょうか。
できたら、意識がなくなっても、子守唄を歌って欲しいんです」
何気ない場面なのだが、とても印象に残った。
映画鑑賞や読書など「視覚」を中心とした生活を送っているからか、
「聴覚」に意識を向けたことは少なかった気がする。
しかし、この作品通じて「聴覚」を意識することが増えた。
目をつぶっていても、聞こえてくる音や会話は、
どんな微かな音も聞き逃さないように働いてくれている耳があるから。
そして本人の意識がなくなっても、聴覚だけは働き続け、
外からの音(声)を、体の中の細胞に伝えているようだ。
これからは、もっと意識して「耳」を大切にしたいなと思う。
無駄な部分多すぎ
人間の尊厳死に関する作品。
「死にたい」と思っている重病患者を死なせた女医が告発される話。ありがちだけど、とても興味深い題材。
しかしこの映画、ものすご~く無駄な部分が多い。序盤、自らの過去をゆっくりと語る患者。ただそれが戦時中の話とか貧しかった子供時代とか、病気には全然関係ないエピソード。
さらには女医も不倫してたりして、なんか構成が散漫なんだな。
病気そのものも「ぜんそく」で、ちょっとわかりづらい。どうせ作り話なんだから素直にガンにすればよかったのに、その辺映画として演出が下手だなぁと思う。
終盤、検察官と女医との尋問は見ごたえたっぷり。ただ盛り上がるのはほんの30分くらいで、ラストもなんか中途半端。『それでもボクはやってない』みたいに取調べと裁判中心ならよかったのに。
全体的に暗すぎる内容。役所さんの苦しむ姿は苦手な人だとトラウマになるぞ(笑)
家族への信託。
周防監督またお得意のジャンル?と思わせるような作品。
法と秩序の不条理と人間の心理を巧みに縫い合わせて観せる。
観やすい作品ではないが(今回はまた一段と暗い)
例えば自分の最期、家族の最期、を看とる時期にある人は
色々と考えさせられることが多い作品なのではないか。
私的に最近、親世代の入退院や葬儀が相次いだ。そんな歳だ。
子供の頃はまだまだ先だと(親なんて一生元気なものなんだと)
能天気に思っていた私も、そんなお気楽に済まされない時期に
差し掛かってきた。そこで最近思うのが、自分の最期である。
今作は各々の立場で観ることができる作品だと思う。
折井医師。
まぁ誠実で真っ直ぐな女性だな、ということがすぐに分かる。
その分恋愛にも懸命で…今風に言うとイタイ?女なんだろうか。
患者には信頼を寄せられる医師だったようだが、とりわけ今回の
江木という重度の喘息患者との心通を重ねていく。
アナタは人生を正直に生きている。と江木に言われる折井医師。
それは確かに褒め言葉ではあるが、言い換えればアナタならば、
私の終の信託を受け容れてくれるだろう?と言っているのと同じ。
妻や家族に言ってもムダ(というより言えないから)アナタならば。
そんな重い選択を幾ら信頼を寄せている医師だからって、任せて
いいものなんだろうか。そこまで思うのならば、それを口頭でなく
しっかりと文書で遺しとけよ!と江木に対しては強く思った。
遺族の心配をすると同時に折井医師のその後の留意も必要だった。
まぁ確かに折井医師もこの江木に対して心が傾倒していなければ、
もっと冷静に医療判断を下せたのかもしれないが。
患者江木。
巧みに生きてきた人なんだろうが(何しろ奥さんが大人しすぎる)
全てを自分で背負い決めてしまうところが非常に頑固。
自分の人生は自分で決めるのはもちろんだが、結婚した時点で
アナタには家族に対する責任があったはず。命が朽ち果てるまで、
その意思選択を、どうして家族の誰にも言ってはくれないんだろう。
妻であったり、子供であったら、これほど切ないことはない。
一体今まで誰が彼の面倒をみて、看病をして、長い長い闘病生活に
付き合ってきたと思っているのか。いや、それだからこそ言えない。
という遠慮こそ傲慢に映る。彼の死を迎え納めるのは家族なんだぞ。
今作では折井医師とのラブストーリーが絡めてある(らしい)から
致し方ない選択とはいえ、あまりにもあまりにも…不条理であった。
ただ、私が江木の立場ならやはり(家族に意思は伝えるけれど)
早く家族を楽にしてやりたいと思う。生きる家族には未来を与えたい。
出来ようが出来まいが、家族をまず一番に考えるだろうとは思う。
塚原検事。
今回の大沢たかおの演技は、多分キャストの中で群を抜いている。
脱いだ折井よりも(ゴメンね)、苦しみ抜いた江木よりも(悪いね)、
彼の一挙一言がグサグサと心根に突き刺さってくる。巧い。怖い。
この後半のくだりがいちばんの見せ場で、前作のラストにも通じる。
だって法律は、曲げられないんだもん。そんなの当たり前だろ。と
正攻法でズバッとそこまでのナヨナヨとした倫理を打ち破ってしまう。
あぁ…何だか本当の取り調べ風景を観ているようだった。怖かった。
カツ丼なんて出るワケないか(タバコもね)、刑事ドラマとワケが違う。
自白の強要。。とは最近ニュースを賑わせていたが、
やった。やらない。で逮捕・起訴まで持ちこむことの重要性を見せて、
検事の「作戦」を勉強したような気分になった。非常に観応えがあった。
ドラマ上、最後に出てくるこの検事が最も酷い悪人に見えるが、
彼は彼の仕事をやっただけの事である。医師の仕事と同じなのだ。
うわぁ…またこのまま後味悪く終わるんだな。と思ったら今回、
裁判の結末までを字幕解説してくれる。ふーん…なるほど…そうか。
おそらく折井医師も(内心分かっていたと思う)納得できたんじゃないか。
私が最後その字幕に感動したのは、彼女の判決の鍵となったノート、
それが家族側から提出されたことだった。長い長い夫の看病に疲れて
それが終わったと思ったら医師が逮捕され、自らも尋問され、しかし
最後には夫の意思をしっかり告げて折井医師を救ったともいえる江木の
妻とその家族、その行動こそが何よりの誇りでしょう、天国の江木さん。
そう思わずにはいられなかった。
(今後の信託について、色々と勉強になりました。オペラの詞の解説も)
良かったです。
2時間半もあったのか、と思えるくらいに魅せる映画でした。
ラストの医師折井と、検察官塚原のやり取りは緊張感半端ないです。
真実と事実が戦った時、法のもとでは事実が勝ち、出てきた真実は考慮される。
見た人の大勢は、折井側の味方になりそうな印象を持ちました。
塚原の言ってる事は正しいけれど、折井の言葉を受け付けず、言葉の隙を狙い、誘導していく感じは狡猾な印象があります。
延命治療を中止した江木さんの苦しむシーンも力が入りました。あのシーンを見てしまうと、果たしてこれは正しいのかどうかと思えます。ただの肉の塊として生きたくはなかった江木さんの希望を叶えた結果なのですが。人命って、難しいと思いました。
144分があっという間でした!
実は周防監督の作品を見るのは初めて。
さすがにどの作品も評価が高いだけはありますね。
尊厳死のすごい重い話題を飽きさせることなくこの長い上映時間でタップリ見せつけます。
それに綺麗事にお話を終わらせていないところもすごい。
いろいろ人生に疲れた草刈演じる女医さんが患者の役所に癒しを見出し、結局延命を臨まない役所の延命措置を終わらせ殺人罪を追求されていく。
出てくる人間それぞれの主張に正当性があり、それぞれにその正当性を通すための理不尽さがあると思う。
けど、女医さんが‘意識がなくなり、本人が苦しんでいるのが分かっていても生かせなくてはいけないんですか?’と言うセリフが胸につきました。
けど、周りの人間は少しでも生きてもらうことが最高の治療と思いますもんね。
前半は役所が亡くなるまでの治療の日々、後半40分は草刈と検事の大沢たかおとの息ずまる攻防戦が描かれます。
命はどれだけ大切で、それは誰のものなかということを考えさせられるお話でした。
静かな昭和映画
とても静かな映画だった。
静かだったのは序盤だけで、
終盤の検事のやりとりは全然静かではないけれども、
印象としては静かな
どこか懐かしい作りの映画だった。
たぶん10年後にみても色褪せない映画だ。
尊厳死、終末医療のあり方をテーマにしているので
重たい感じになるが、淡々と進んでいく。
役所広司は言うまでもなく良い感じだったが、
大沢たかおがとても良い役だったな。
終盤のやりとりは迫力もあり見ごたえもあった。
医療で殺人で愛で狂気
試写会で観てきました。
前半は若干長く感じますが、次第に話に引き込まれていきます。
まさに「医療か?殺人か?愛か?狂気か?」というコピーそのもので、全てに頷けるから後味が悪いというかずっしりくるというかべっこり凹むというか…。
草刈民代演じる医師の折井の行為は、ただ只管に江木への愛情に因るものだったかもしれないけれど、彼女が江木の望みである「死に方」に異様にとらわれていたのは事実だと思います。
江木が折井にだけ、延命治療は望まず楽に死にたいと伝えていたこと、故郷を思い散歩をする心情を零していたこと。
江木が確かに、折井に対して深い信頼を寄せていたこと。
折井が江木の妻に延命治療を続けるか否かを告げるシーンは、深い悲しみと、強迫観念にも似た使命感と、それから何か優越感のようなものすら感じました。
前半の失恋に因る自殺未遂で、彼女が恋愛に対して、純粋で、脆く、狂信的な性質であることを見せているから、江木の最期のシーンが余計怖かったです。
塚原検事の尋問が嫌な気持ちになったけれど、頑なに「殺した」と言わせようとしながらも、折井と話し酷く葛藤しているのだろう複雑な様子がとても印象的でした。
塚原、そして折井から目を逸らす杉田は、映画を観ている私なのかもしれません。
あと、ポスターなど、草刈、役所、浅野、大沢の四人が写っていますが、浅野忠信演じる高井はそこにいるべきなの!?細田よしひこでいいんじゃないの、と思ったりして。
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