「【心が傷ついた女医と末期患者との心の交流をきっかけに起きた出来事。周防監督が”安楽死”について、世に問うた意義深き作品。】」終の信託 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【心が傷ついた女医と末期患者との心の交流をきっかけに起きた出来事。周防監督が”安楽死”について、世に問うた意義深き作品。】
ー物語は、冒頭、検事の塚原透(大沢たかお)に検事局に呼びだされた折井綾乃(草刈民代)の憔悴しきった姿から始まる。-
■折井綾乃は長年、重度の喘息に苦しむ江木(役所広司)の担当医。
江木は病に侵されているが、心優しく、聡明な男であることが分かる。
一方、折井は不倫の相手、同僚の高木医師(浅野忠信)から裏切られ、院内で、睡眠薬による自殺を図る。”俺、結婚するなんて、言ったっけ・・”
-何故、江木があんな下衆な男に惹かれたのかは描かれていない・・。ー
・江木は苦しい体調の中、折井に優しく接する。
-折井は江木の医者だが、折井は江木の心の支えになっていく・・。-
・江木の幾つかの言葉
”人間、死の時は最後は聴覚が残るそうですね・・”
-江木の妹の終戦中の話。-
”これ以上、妻に辛い思いをさせたくない・・。僕の看病から解放してあげたい・・”
”先生、お願いがあります。その時が来たら”楽に”してください・・。僕は何より、先生を信頼しています・・。”
■ある日、江木が意識不明の状態で病院に運び込まれる。折井は必死に治療をするが、
気道に居れたチューブの中の、血を見て・・、妻たちに涙ながらに言う言葉。
”自然にお任せしたら・・”
”これ以上の延命治療を望まれますか・・”
江木は激しい痙攣に襲われ、
”江木さん、ごめんなさい・・”
ー耳元で”子守唄が流れる・・-
◆場面は一転して、冒頭の検事局に戻る。
ーここからの、塚原検事と折井との"終末医療”に対しての考え方の相違を基にした遣り取りは圧巻である。ー
塚原の検事として折井の行為は殺人である・・、という考え方と、折井の助からない人の命を、苦しませながら延命させるのは違うのではないか・・という二つの考え方。
-周防監督の考え方は、高圧的な塚原検事の描き方で、推測が付く。ー
<現在でも大きな解決の道が見えていない、”終末医療””安楽死”を題材に周防監督が正面から取り組んだ意義ある作品。
あのラストをどう見るかは、人それぞれだろうが、私は塚原検事の姿勢、考え方は肯定しない。
何故なら、江木を長年支えてきたのは、折井である。
二人の感情の結びつきが深まっていた背景があるという事も分かっているが、チューブの中の胃潰瘍による血を見てしまった時に彼女は覚悟を決めたのだろう。
”これ以上苦しませてはいけないと・・。”
その行いを罪に問うのかどうか・・。>
<2012年11月 劇場にて鑑賞>
<2020年10月 他媒体にて再度鑑賞>