「関係あるかいそんなん、わしが法律じゃい! これぞ正統派ハードボイルド…なのか?」アウトロー たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
関係あるかいそんなん、わしが法律じゃい! これぞ正統派ハードボイルド…なのか?
元ミリタリーポリスのはぐれもの、ジャック・リーチャーの活躍を描くアクション・サスペンス『ジャック・リーチャー』シリーズの第1作。
5人が犠牲となった無差別狙撃事件の容疑者、ジェームズ・バーは黙して語らず、ただ一言「ジャック・リーチャーを呼べ」と書き付ける。
バーとの間にある因縁を持つ流れ者のジャックと弁護士のヘレンは真相解明のため捜査を進めるのだが、次第にこの事件の裏に隠された陰謀が明らかになる…。
主人公ジャック・リーチャーを演じるのは『トップガン』『ミッション:インポッシブル』シリーズの、レジェンド俳優トム・クルーズ。なお、トムは本作の製作も手掛けている。
ジャックと行動を共にするバーの弁護士、ヘレン・ロディンを演じるのは『プライドと偏見』『17歳の肖像』の、名優ロザムンド・パイク。
全世界シリーズ累計発行部数は1億部を超えるという、作家リー・チャイルドによる大ヒットハードボイルド小説「ジャック・リーチャー」(1997-)シリーズの実写映画版。原作は未読。
これは2024年現在、長編小説が29本、短編小説も20本以上あるという壮大なシリーズなのですが、本作はその中の第9作「One Shot」(2005)を扱っているということです。第1作目から順番に映像化していくというスタイルではないんですねぇ。
にしても、この邦題『アウトロー』というのはなんとも投げやりというかいい加減というか…。トム・クルーズの映画なんて九分九厘がアウトローものじゃんか。
素直に『ジャック・リーチャー』というタイトルにしておけば良かったものの、こんな邦題にしたせいで案の定次回作との連携がグズグズになってしまった。
なんの面白みもなく印象にも残らない、ダメ邦題の典型っすねこれは。
本作はトム・クルーズ×クリストファー・マッカリーという黄金コンビ誕生の一作。…まあ『ワルキューレ』(2008)や『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)にマッカリーは脚本家として携わっているんだけど、本格的にタッグを組んだのは今回が初。
近年のトム・クルーズの出演作品には監督/脚本/製作など、役職の違いこそあれほぼ全て彼が関わっている。よほどウマがあったのだろうか?マッカリーとの出会いによりトムは全盛期を迎えた、そう言い切って良いほどに近年の彼は八面六臂の大活躍を繰り広げているが、その嚆矢になったのが何を隠そうこの作品。トム映画の中ではイマイチ影の薄い印象もある本作だが、実はかなりの重要作品なのです!
元軍人のアウトローが主人公ということで、てっきりアクション要素が満載のスーパーヒーロー映画かと思っていたのですが、少なくとも前半は超硬派なハードボイルド探偵もの。
白昼堂々の無差別殺人というショッキングな事件を、己の目と足を使って捜査していく一匹狼の流れ者。美女との出会い、悪漢の襲撃、巨悪の存在。嘘と真、虚と実がコロコロと入れ替わる、まるでフィリップ・マーロウが現代に蘇ったかのような正統派ハードボイルド・ミステリーが展開される。
一昔前ならクリント・イーストウッドあたりが演じていたであろうジャック・リーチャーというキャラクター。そういえばイーストウッドも『アウトロー』(1976)という邦題の映画を制作してたっけ。
ただ、この作品がただのハードボイルドものに収まらない娯楽映画としての側面も有しているのは、ひとえにトム・クルーズの愛嬌あってのもの。もし仮に本作の主演がイーストウッドだったら、絶対にもっとハードでダークな映画になっていたと思う。
近寄りがたいオーラを放ちながらもどこかチャーミング。トムの魅力がフルに発揮された、これぞ新時代ハードボイルド探偵のあるべき姿!
物語が進むに従って映画はますます盛り上がる。明らかになる真実、姿を現す裏社会のフィクサー、まさかの裏切り者、着せられた濡れ衣。いやーん盛り上がって来たーー(๑>◡<๑)ーー!✨とテンションが上がるのと同時にある懸念が。あと30分くらいしか残り時間がないけどこれ綺麗に終われるの?
はい、終われませんでした。色んな物事ぶん投げて、最後は悪党全員ぶっ殺して終劇。平松伸二の漫画かっ💦
さっき知り合ったばかりのジジイがいきなり殴り込みに参加したり、何故か銃を捨ててのステゴロバトルが始まったりと、クライマックスに来ていきなりIQがガクッと落ちる。サービス精神旺盛なトムのこと、やはりラストは大立ち回りしかない!との思いがそうさせたのかも知れないが、積み上げたミステリー要素を土壇場でひっくり返すその大胆すぎる作劇には面食らってしまった。ヘレンが「いやいや、バーの無実を晴らすのはどうすんのよ!」なんて言ってたが、本当にその通りだよ!
死刑制度への異議や帰還兵の心的外傷など、社会問題を盛り込もうとした形跡はあるのだが、最終的にそんなことはどうでも良くなっちゃった。
抑制の効いた劇伴と黒が際立つ色調はいかにもハードボイルドって感じでクールだったので、アクションに逃げず最後までその作風を貫き通して欲しかった、というのが本音。
ジャックが乗り込んだ家のテレビに西部劇がこれみよがしに映っていたわけだが、トムとマッカリー監督が描こうとしたのは現代版西部劇だったのだろう。その方向性で判断すると『ウインド・リバー』(2017)などの傑作を生み出したテイラー・シェリダン監督の足元にも及んでいないわけだが、とはいえやはりトムのド派手なアクションは観ていて楽しく、満足感はある。静と動をうまく使い分けている…というには騒がしすぎる気もするが、まあハリウッド娯楽大作なんだからこのぐらい大味でいいのかも知れないっすね。
…にしてもトムさんはやっぱり良いカラダ❤️トムとプラピは幾つになっても裸ノルマを達成してくれる。ありがたやありがたや。
ロザムンド・パイクも異常に胸元が空いた服を着てくれていて、ありがたやありがたや。
アウトローは悪党、アウトサイダーははみ出し者や、風来坊みたいな意味らしいです。
自分が守るべき矜持の有無というか。
このシリーズ、2作で終わったのざんねんだなあ。