「妥協なしの仕置人、ジャック・リーチャー」アウトロー マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
妥協なしの仕置人、ジャック・リーチャー
スーパースター、トム・クルーズの作品とあって字幕翻訳は戸田奈津子だが、冒頭の5分以上まったくセリフがない。何者かによる無差別と思われる狙撃事件が痛いほどリアルに、そして無言で描かれる。
この事件の容疑者として捕らえられた容疑者が黙秘を貫きながらも呼び寄せたのが、弁護人ではなく元米陸軍捜査官ジャック・リーチャーという堂々たる演出の中、「待ってました」とばかりにトム・クルーズの登場だ。
「トップガン」から27年、50歳になるトム・クルーズだが、あの爽やかな笑顔は相変わらずで、小柄ながらも筋肉のついた体でアクションスターのトップを走り続けている。私もそうだが、けっこう男のファンが多いと思う。
ヒロインの弁護士ヘレンは、知的さを漂わせる美人女優ロザムンド・パイクだが、ここは男女のベタベタ感がない。
むしろドイツの監督でもあるヴェルナー・ヘルツォークが演じるロシア人のゼックや、名優ロバート・デュヴァルによる射撃場オーナーのキャッシュらが作品に渋味を加え、男臭さを前面に出した作品に仕上がっている。
主人公のジャック・リーチャーは、正義感が強く、自身の倫理観のみで行動する一匹狼だ。一度見たものは忘れず、一瞬の変化も見逃さず、シャーロック・ホームズのように論理的な推理をしてみせる。行動は機敏で迷いがなく悪人に容赦がない。いわば報酬を取らない仕置人で、このいっさい妥協なしの流れ者という役をトム・クルーズが楽しんでいることが伝わってくる。
赤いカマロを駆ってのカーチェイスは車のバウンドが凄く、腹に響くエキゾーストノートは「ブリット」(1968)を彷彿させる。チェイス後はトム・クルーズらしい“おとぼけ”で笑わせる。
原作になったのはシリーズから2005年の『ワン・ショット』。冒頭の狙撃事件で誰にも命中しなかった一発の謎。ジャック・リーチャーによる裁きの一発。どちらも『ワン・ショット』というタイトルに懸けている。