「あの夏出会った人は、忘れられない脱獄犯でした…」とらわれて夏 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あの夏出会った人は、忘れられない脱獄犯でした…
1987年のある夏の日、シングルマザーのアデルと13歳の息子ヘンリーは買い物中に脱獄犯のフランクと出会い、強要されて匿う事に…。
やがてこの脱獄犯に惹かれ…という、はっきり言えばベタなメロドラマ。強引な点やツッコミ所もあるし、オチも出来すぎで、ご都合主義。
しかし、アダルトなムードと情感たっぷりで、なかなか魅せられた。
何と言ってもメイン3人の演技が素晴らしい。
離婚が原因で精神的に不安定。が、フランクとの出会いで再び女を目覚めさせる。
ケイト・ウィンスレットが生活臭漂うエロス。
ジョシュ・ブローリンも顎髭と脂ぎった肉体から感じさせるセックス・アピール、そして人間味。
特筆すべきは、ヘンリー役のガトリン・グリフィス。
思春期真っ只中、この5日間の夏の日の事を、彼の視点で描いているのが面白い。
母親を気遣う年齢以上に大人の精神の持ち主で、脱獄犯…と言うより、再び男と艶かしいロマンスに落ちる母をどう見ていたのか。
自身もまた、フランクに対してどんな感情を抱いていたか。彼にシンパシーを感じていたのは確かだが、母親ほど心を開いてはおらず、心の片隅に引け目や後ろめたさを感じた。
思春期、彼が目の当たりにした出来事、愛の形を繊細に演じ描く。
たった5日間だが、知れば知るほど凶悪犯には思えないフランク。
アデルには女を潤させ、父親不在のヘンリーには父親のような存在。
時折挿入されるフランクの過去からもそれを感じさせる。人を殺めた事は間違いないが、苦しい悲しみを抱えた男。
そして、作ってくれたピーチパイ。
このピーチパイが、最後に巧く効いた。
出会った男は脱獄犯。
でも、その後の人生に影響を与えたピーチパイの味とあの夏の5日間の思い出。
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