「一口に言って酒浸りの生活がメインの作品。デップのファンで彼が登場しているだけで満足という人以外は、お勧めしづらい。」ラム・ダイアリー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
一口に言って酒浸りの生活がメインの作品。デップのファンで彼が登場しているだけで満足という人以外は、お勧めしづらい。
本作は、反骨のジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンの自伝的小説の映画化したもの。
シンクのセスナがカリブ海の上空を滑空するシーンや主人公とヒロインのシュノーが真っ赤なオープンカーに乗って疾走したり、巧みにカリブのブルーな海にアクセントとなるストライプのような赤を浮きだたせるビジュアルはいいと思います。原色が似合う灼熱の島プエルトリコの海が舞台だけに、その色使いはまるで一枚の絵ハガキのようです。
ジョニー・デップとハンター・S・トンプソンのつながりは1998年製作の『ラスベガスをやっつけろ』の主演ラウル役をジョニー・デップが演じることになって、その役作りのため、ラウルのモデルである原作者トンプソンの付き人となったことがきっかけです。彼の仕草や癖をマスターし、髪を剃って彼と同じように禿頭することで、トンプソンに徹底同化。以来トンプソンを敬愛するようになっていったようです。
本作は2005年に自殺してしまったトンプソンに哀悼の気持ちを込めて、デップ自身が企画・製作・主演したもの。いつもはコスプレや派手なメイクが多いデップだが、今回はほぼ素顔で勝負。好きでやりたい事をしている喜びが、全編にあふれた演技でぜんぜん楽しめませんでした。
やはりデップに期待してしまうのは、コミカルな動きに富んだ色物俳優としての役割なんですね。けれども本来のデップは、演技派の俳優であって、2004年にアカデミー主演男優賞ノミネートされた『ネバーランド』では実に素晴らしいヒューマンな演技を披露しているのです。
だから穿った見方をすると、本作は色物俳優として確立されてしまった自分の偶像を壊したいという反動で作られている気がします。
その証拠に主人公のポール・ケンプは、モデルとなるトンプソンに比べて巨悪に立ち向かうことも中途半端で、同僚の記者とラム酒に浸って、ハチャメチャな行動することばかりが目立つ作品なのです。その点では、デップが演じた『ラスベガスをやっつけろ』でも、主人公のラウルが、トランク一杯に、大麻・コカイン・LSD・メスカリン等々、ヤバいドラッグを詰め込んで、やりたい放題のことをしまくるという点ですごく似ています。 ただ、反骨のジャーナリズムを描きたいのか、それともプエルトリコの実情を描きたいのか、取材対象の婚約者だったシュノーとの許されざる恋を描きたいのか、どれもが中途半端で、どんな意図を込めて描いているのかがさっぱり伝わりません。
途中で眠くなることもしばしばでした。デップがとにかく好きなファンならまだしも、原作者のトンプソンのジャーナリストとしての信念が全く伝わってこない展開は、いい加減デップは何を考えているのかしらんと首を掲げたくなるストーリーでした。
それだけ自分が企画した作品だけに、好きなように作り上げたかったのかもしれません。まぁ、デップのファンで彼が登場しているだけで満足という人以外は、お勧めしづらい作品でしたね。
特にポールとシュノーの唐突に突入するベッドシーンがこれまた唐突にノイズが入り中断されてしまうのは、いかにもわざとらしく不満です。デップは脱ぎたくなかったのかなと勘ぐりたくなる不自然さでした。シュノーの初登場も海の中で人魚のように裸で現れるというあり得ない趣向。
デップの道楽に付き合わされた感じですね。