劇場公開日 2012年2月17日

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「SFではなく現実。」TIME タイム まじさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5SFではなく現実。

2013年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

この作品が扱っているのは権力と貧困、不老不死などの普遍的なテーマだ。
この映画では、寿命を通貨とした斬新な設定を見せている。25歳で老化が止まるので、成熟しているが、若さを保った容姿をしており、美男美女ばかりだ。年功序列もない。いつまででも若くあり続ける、理想的な世界だ。だが、生きる為には寿命を稼がねばならず、労働による時間の報酬を得るのだ。
ここでは絶対の権力者が長寿で、貧困層は短命という、恐ろしい世界を創作している。未来と言うよりは、別世界のファンタジーと見るのがいいと思う。だが、生活は現実世界に近い。奇抜なファッションもなければ、浮いて走る車もない。違うのは、時間=通貨と言うルールだけなのだ。
ここで描かれているのは未来や異世界ではなく、現代。
派手なアクションは控えて、この世界での残酷な現実を眈々と見せている。衣装や車などに、現実と大差なくしている事でもそれが分かる。
ミヒャエル・エンデ作『モモ』でも、時間を奪う灰色の男たちが登場する。子供はたくさんの時間を持っていたが、大人になると、時間に追われ「時間がない」と漏らす。それは時間貯蓄銀行と名乗る、灰色の男たちに騙され、時間を奪われてゆくからなのだ。灰色の男たちは、奪った時間で生き永らえるのである。
この作品は、その『モモ』に着想を得たものだと思われる。更に
命を通貨とする事で、貧困層から命を吸い取って生きる富裕層の、
より残酷な図式を際立たせている。
現実に於いても、金は命に近いものになってきている。低所得者が増え、貧富の差が大きくなっている。それは巧みなシステムにより、労働者の上前をはねているからなのだ。権力者は、一人で何人分の命を搾取したのだろうか?
これは現実社会に警鐘を鳴らしている物語だ。
『モモ』の灰色の男たちは、普段は目に見えないが、我々の住む世界では、普通に暮らしているのである。

まじさん