「完全なるヒエラルキー」TIME タイム kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
完全なるヒエラルキー
世界はいくつかのゾーンに分かれていて、そこを通行するには1ヶ月という料金がかかっている。高級外車が59年、コーヒーの料金が4分くらいだから、それを基準に考えれば物価がわかりやすい。スラムと呼ばれる貧民街では、人々は1日分の時間しか持ってないようだ。工場で働いても、日給は多分1日くらい。仕事の無い人間は毎日のように福祉局へ通って時間をもらわなければならない世界だ。
ウィル(ティンバーレイク)はある日、バーにいた余命116年という男ヘンリー・ハミルトン(マット・ボマー)をギャングから助けるが、彼と飲みかわしているうち眠りこけ、ヘンリーは余命を彼に与えて自殺する。腕を握り合うと時間が移動して、腕に刻まれたデジタルが変化するという世界。ヘンリーは100歳を超えていたが、人生の虚しさを感じていたのだろうか?自殺はやがて殺人容疑に切り替わり、ウィルが指名手配されることに・・・
ヒエラルキーのゾーンをいくつも抜け、富裕層のゾーンにたどりついたウィル。そこ地域のカジノではフィリップ・ワイスというローン会社社長と知り合い、パーティにも招待されることになった。彼の娘シルビア(セイフライド)とも仲良くなるが、そこに現れたタイムキーパーと呼ばれる警察組織(中心がキリアン・マーフィ)がウィルを逮捕しようとする。ポーカーで稼いだ1000年も没収だ!ウィルはシルビアを人質にとり、貧民街へと逃げる・・・
25歳以降は老けることもないので、永遠の命を手に入れることはそれなりに意味を持つ世界観。勝者は労働者から搾取し、彼らを死に追いやることで生き長らえるのだ。時間というSF的発想は面白く、展開が単調ではあるものの、資本主義社会の矛盾を的確にとらえている内容は興味深い。終盤にはウィルとシルビアが義賊のごとく、父のローン会社や金融機関を襲い、人々に時間を分け与えると展開。それだけでは何の解決にもならないのだが、25歳をちょっと過ぎただけの若者の考えること。何しろ、貧民街労働者のほとんどは1日分の余命しか持ってないのだ。生きるのが精一杯だということが、彼らを縛りつけ、反乱など起こせないようにしているわけだ。また、ギャングの存在も管理局が野放し状態にしているという設定。同じ貧困層からしか時間を奪わない悪党なのだが・・・
アクションだとか、SFを楽しむ映画ではなかったのだな。ストーリーを追及していくと、まだまだ謎が残されている。物価や税金、金利が簡単に高騰していく世の中。とにかく“時間=金”の搾取だけではなく、“人口を増やさない=死”ということも富裕層は管理しているわけだ。
中盤ではウィルの母親(オリヴィア・ワイルド)がローンを支払った後、家に帰ろうとするとき、バスの料金(2時間だっけ?)が上がっていて、乗ると死んじゃう・・・走って帰ろうとするが、残りは1時間半しかないのだ。そして、バス降り場に母の姿が見当たらなかったウィルが慌てて母を探す。なんとか間に合ったか?と思えた瞬間、時間切れで母が死んでしまうシーンに泣けてきた。まさしく、“not in time”。時間と言う概念だけじゃなく、タイトルには“間に合う”などという意味もあったのだな・・・