「最強のBGM。」最強のふたり ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
最強のBGM。
あまりの反響の大きさに、どのくらい最強な映画なのかと期待した。
確かにいい作品だった。幸せな気分で劇場をあとにできる。
ただ、今作のどこがそんなに「最強」なのかはハッキリしなかった。
強いというよりはサラッとしていて爽やかなイメージが残る。
この二人が結んだ絆は確かに「最強」、他の価値観や既成概念を
覆し、思うままありのままを受けとめる重要性を淡々と説いている。
障害者が健常者とは違う(気遣いだらけの)施しを受け、辟易として
いるところへ、そんな気遣いはなんのその、自分のことで精一杯の
男が職を求めてやってくる。この時点で二人の貧富の差は明らか。
金がすべて。の男と、金などくれてやる。という男の、一言一言が
ありとあらゆるシーンで交差し、ぶつかり合っているのに心地良い。
実はお互いに、大切なものを取り戻せないでいる。
いつの頃からか変わってしまった自分。不幸を何らかのせいにして、
どうせムダだからと投げやりになっている自分。とはいえ、何かと
他人のことは気にかかって、世話を焼いてしまう自分。今の自分に
必要なものは何なのか。本当の自分は、何から逃げているんだろう。
あの頃の自分を取り戻して、大切な相手に素直に接してみたい。
そんな切ない希望が、この一見愉快な二人から痛いほど伝わってくる。
事故で頸椎を損傷、大好きな妻をも失い、しかし今では文通相手に
一筋の幸福感を味わっている大富豪、どこが不幸だと思うほど金銭的
には恵まれているものの、すでに人生への挑戦意欲を失ってしまった。
失業保険を延ばすためだけの目的で、屋敷を訪れた黒人青年。
誰がこんな奴の介護など。と鼻持ちならない彼に対し誠意の伝え方を
訥々と説いていく大富豪の上品な面持ちと使用人達のキャラが面白い。
絶対的に価値観相違の相手とは(何があろうと)巧くいかないものだが、
この二人の価値観は驚くほど似ている。ひねくれた態度は表向きで、
実は内向的で思慮深く優しい性格なのだ。コイツなら分かってくれると、
そういう直感めいたものって、初対面でも感じる時は感じられるもの。
どんなに趣味が違おうと、根柢のところで合う人とは、なぜか通じ合う。
そんなこんなで色々な出来事をかわしていく二人。
このままずっと頼り合うのかと思いきや、意外な別れがやがて訪れる。
確かに自分の人生は自分で切り拓いていかねばならない。
どんなに通じ合う相手でも、一生涯自分に寄り添えるとは限らないのだ。
面白いのは、離れてみてその大切さに気付いてしまうジレンマとの闘い。
最後に二人が選んだ挑戦とは…?果たして。
号泣するような場面もないし、山あり谷ありというほどの曲折も経ない。
ケラケラ、クスクス、と笑っているうちにどんどん話は進み、最後には
ジーンとさせて、またサラッと終わる。
いかにもフランス的で、オシャレで軽快、でも中には必要なエッセンスが
しっかり詰まっている、そんなところが「最強」の映画なのかもしれない。
(私にとってはアースのセプテンバーが最強のBGMだった気がする^^;)