「やはり、あの詩的で美しい映像と、惨いリアリティの波状攻撃により、暫し茫然となる…」光のノスタルジア osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
やはり、あの詩的で美しい映像と、惨いリアリティの波状攻撃により、暫し茫然となる…
グスマンのこのシリーズは、ネット配信で『真珠のボタン』を既に観ていたが、
やはり、あの詩的な映像美はスクリーンの大きな画面で観ると、より一層とあの世界へと引き込まれる。
遥か昔の宇宙の起源を探求する天文学者、地球の歴史を地層から探求する考古学者、そして、ピノチェト政権によって虐殺された家族の遺体を探す女性達。
この「過去」に起こった事を探し求めている人達のインタビューで構成されてはいるが、同じチリのアタカマ砂漠にて「過去」の断片を探している人達とは言っても、天文学者が話していた通り、権力の暴力によって殺された家族の遺体を探す人達の行動と、宇宙の探求を比較するなど、到底出来る訳がない。
青く澄み切った空の下、乾き切った空気の広大な砂漠において「過去を探す」という文脈で、かなり強引にリンクさせているのは明らかなのだが…
あの映像美によって巧みに構成されると物の見事に引き込まれてしまう。
当時のピノチェト政権下の状況については、もっとリアルな証言や映像などで、その理不尽な実情を良く知らない人達にも伝わるようなフッテージはあった方が良かったと思うが、遺体の掘り起こしの実録映像では、標高が高く乾燥し切った土地ゆえに、腐蝕があまり進捗してない為、殺された生々しさが無残にもリアルに伝わる遺体が写し出されていた。
そのあまりにも悲しく惨すぎる映像は、あの虐殺の酷さを伝えるには充分過ぎるほどだったかもしれない。
あまりにも密度が濃くて、2時間以上は観ていたような体感だったが、終わったら1時間半しか経過していなかった。
まさに「記憶はあたかも、重力のような力で私たちの心をとらえ続ける」そんな映画であった。