劇場公開日 2014年7月5日

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「呪いに囚われて」マレフィセント 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5呪いに囚われて

2014年8月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

幸せ

『眠れる森の美女』に登場する悪い妖精マレフィセント
の知られざる物語……とのことだが、残念ながら
元となった『眠れる森の美女』は未鑑賞の自分。
とりあえず今回は『眠れる森の美女』の
あらすじだけ押さえた上で鑑賞。

見終わってから思うのは……
この映画、『眠れる森の美女』の新解釈というより
パラレルワールドみたいなお話だったのね。
予習してたあらすじとずいぶん違う。

けれど、ファンタジックな世界観は楽しいし、
役者陣も良いし、アクションもそこそこにあるし、
終盤のあのシーンにはちょっと泣いてしまった。
けっこう楽しんでみることができました。

* * *

まずは主演のアンジェリーナ・ジョリー。
彼女って美人なのだけどなはんか恐い。
その厳格で恐い雰囲気が、この役にはピッタリだった。
洗礼式のシーン、スねて泣き出しそうな表情から一変
してニマァと笑う時の表情が恐くてユーモラスで印象的。

王様を死ぬほど憎む気持ちも理解できる。
王様が最初にマレフィセントを殺さなかったのは逆に
残酷だよね。彼女の恋心も誇りも奪い去るむごい行為。
彼女にとってはいっそ殺された方がマシだったん
じゃないかしらと思えるくらいにむごい。
そりゃ呪いのひとつもかけたくなるってもんですよ。

けど、自分を棄てた男への復讐に
燃えていたとはいえ、その娘には罪は無いワケで。

おまけにその娘が魔物たちを恐れず慈しむ
心根のきれいな子で、なにより自分を母親のように
慕ってくれているとなれば、心変わりも仕方ない。
かつて自分が掴めなかった幸せを、
あの純粋無垢な優しい娘に託したくなったんだろう。

その娘というのがオーロラ姫。
意図的なのか偶然なのか、闇夜に輝くオーロラという
名は、作品中での彼女の役割をよく表していると思う。
演じたエル・ファニングって、正直すごい美人という
感じじゃないのだが、屈託のない笑顔が魅力的。
ドス黒くなってしまった魔女の心をほだすだけの、
十分な純粋さが感じられるステキな笑顔だった。
にしてもこの娘(こ)、3年前の『SUPER 8』の
頃から全く変わってない気がするなあ(笑)。

まあ、それでもいきなり彼女への呪いを解こうとするのは
唐突に思えたかな。王への憎しみと姫への想いを
天秤に掛けるようなシーンがあれば納得できたかも。

さて、個人的に一番お気に入りのキャラは実は
あのイカれた王様。演じるのは『第9地区』以来
ひっぱりダコのシャルト・コプリーだが、この人は
パラノイア(妄想症)的なキャラがホントにハマる。

自分の犯した罪の重さと、その報復の恐怖に
耐えきれず、段々とおかしくなっていく彼。
再会した娘に対しても冷たい彼はたぶん、
恐怖のあまり、何の為に糸車を集めたのかも
すっかり忘れてしまったんじゃないか。
この映画で最も醜く恐ろしいキャラは彼だが、
ほんの少し哀れでもある。

* * *

ホント、愛と呪いなんて紙一重の差でしかない。
憎むべき相手に呪いをかけていたはずのマレフィセント
だが、実は彼女自身が呪いに囚われて身動きが
取れなくなっていたのかも知れない。
呪いを解けたのは、かつての純粋な自分を思い出す事が
できたから。そして、自分より大切な存在ができたから。
本作は、手酷い挫折を味わった女性の再生の物語、
とも取れる。

以上!
ほんのちょっぴり恐いが、美しくて楽しい映画でした。

ところで終盤のとある重要シーンだが……
最近は“一目惚れ”なんてナンセンス!という風潮が
あるのかしら。『アナと雪の女王』といい本作といい、
最近のディズニーは女性の方が精神的にタフなので、
ファンタジー世界の王子様もなにかと大変。

〈2014.07.08鑑賞〉

浮遊きびなご