「新たな悪役像を提示した作品」マレフィセント 長井 祥和さんの映画レビュー(感想・評価)
新たな悪役像を提示した作品
眠れる森の美女。ペローやグリムによる紹介により、かなり知ら
れている童話である。ディズニーアニメよりも前に子供用の絵本
で本作に触れた方も多いことであろう。
本作は、その童話の悪役マレフィセントに焦点を当てた作品であ
る。なぜマレフィセントはオーロラ姫に呪いを掛けたのか。一般
的にはオーロラの誕生パーティーに招かれなかったから。という
理由になっている。だが、本作ではマレフィセントの幼少期にま
で遡り、全く違う視点からの物語を描くことで、有名な物語を根
底から覆すものとなっている。
角を生やし、紫色のローブに身を包んだマレフィセント。その姿
は、悪魔的なイメージそのものである。だが、本作では、冒頭か
ら幼少期の妖精としてのマレフィセントを登場させ、意表を突く
。劇場でさんざん流された予告編で、本作は、アンジェリーナ・
ジョリー扮するマレフィセントの妖艶な冷笑が採り上げられてい
る。しかし、それは製作側の仕掛けたトリックであり、予告編で
植え付けられた想像は、見事にひっくり返されることになる。天
真爛漫でのびやかで愛らしい妖精のマレフィセント。空を自由に
疾駆し、生きとし生けるものを愛するマレフィセント。
そんな愛らしいマレフィセントがなぜオーロラに呪いを掛けるま
でになったのか。予告編を観る限りではその謎解きこそが本編の
大きな筋と思い込んでしまう。しかし、その見せ場は前半部分ま
でに実現してしまう。マレフィセントが呪いを掛ける理由が筋書
きとして紡がれ、呪いはあっさりと掛けられる。
本作の見どころはその後にある。マレフィセントがどうやってオ
ーロラに関わっていくか。そして呪いは実現されてしまうのか。
呪いはその後どのような結末を招くのか。
アンジェリーナ・ジョリーの表情の移り変わりから、目が離せな
い。ディズニーキャラクターでマレフィセントが一番好きだった
と語るアンジー。製作も兼ねた彼女の渾身の役作りが圧巻である
。言動以外に表情で観客に語りかけるアンジー。アクション女優
のイメージが未だに抜けきらなかった私には、新たな一面を見せ
られた思いである。
このところ童話の翻案作が目立つハリウッドであるが、同じよう
に目立つのが男性の卑下化である。本作もそれは例外ではなく、
いたるところにそのような描写が目立つ。
だが、それはそれとしても、本作に込められた女性の情念の複雑
さ。そして、アンジーの作り上げたキャラクター、マレフィセン
トが数百年に亘るイメージを破り、全く新たな視点からの悪役像
を提供した本作。その衝撃は、一見の価値がある。
本作を機に、著名な脇役キャラを別の側面から描いた作品が出て
くることを予言したい。
それにしても、ここまで西洋の物語をイメージ化した作品に出会
ったことがない。西洋の持つ童話世界、アーサー王物語に始まる
ファンタジーの世界が見事に映像化されている。今の映像技術が
西洋発祥の物が多いとすれば、それは西洋人が心に持つファンタ
ジー世界を映像化するためだったのではないかと思う程である。
'14/7/20 イオンシネマ 多摩センター