劇場公開日 2012年8月18日

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「演技もアクションも両立できるニーソンの魅力が際立った作品でした。」THE GREY 凍える太陽 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0演技もアクションも両立できるニーソンの魅力が際立った作品でした。

2012年8月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」と同じ監督作品とは思えないくらい重厚な作品。特に リ―アム・ニーソンのファンにとって、彼の渋みのある人間味をこれほどまでに引き出せた作品はないのではと思うくらい、いい演技でした。
 特に冒頭の妻を失って、仕切る気力を失い自殺をほのめかす独白は、ニーソンがこれまで演じてきた様々な役柄が積み重なった渋みを感じさせてくれました。
 典型的なサバイバル映画でありながら、なぜ生きるのか、死と隣り合わせの状況を描くことで、生への目的を追求する、極めて哲学的な作品でもありました。
 但し、極限の寒さと狼の群れが、生存者をひとり、またひとりと追い詰めていく緊迫した展開に、重厚な作品でありながら、全く眠くならない、スリル感!全編ドキドキの画面に釘付けました。
 ラストシーンには異議あり!という人も多いと思いますが、余韻を残すインパクトのある終わり方だったと思います。

 物語は嵐に巻き込まれアラスカの山中に墜落した飛行機に搭乗し、他の6人の生存者と共に、生き残ってしまった主人公オットウェイのサバイバルが描かれます。
 彼らを待ち受けたのは、凍てつく寒さに加えて、牙をむくオオカミの群れと撃つことに。実際にカナダの山間地で撮影されたという映像は、見ただけで体が凍えそうです。機体が散乱する事故現場も、オオカミが迫り来る野営地も、一面雪また雪の銀世界でした。
 森や川を目指す一行を襲うのも猛烈な吹雪。もう演技を超えてリーアム・ニーソンら出演者の必死の形相を目にすれば、その過酷さがひしひし、寒さが伝わってきます。

 狼に一人また二人と犠牲になっていく場面は巧みです。群れで囲みつつ、決して正面から襲ってきません。生き残ったメンバーの僅かな隙をついて、仕掛けてくるのです。まるでジョーズのような、来るぞ来るぞという恐怖感を味わいました。しかも、ときにはメンバーの目の前まで姿を現す大胆な一匹も登場。オオカミの執拗な襲撃に加えて、凍死するメンバーあり、はたまた溺死メンバーあり。そんなパニック描き方は、素朴で簡潔な描写に徹し、力強いと思いました。リーダー格のオットウェイの狼に対する闘志は、骨太でまるでアクション映画のような迫力すら感じさせてくれたのです。
 それにしても、オットウェイは、石油採掘現場で狼ハンターを生業にしてました。事故後、逆に自分が狼に狩られる立場になるとは何とも皮肉です。

 本作は、単なるサバイバルだけでなく、登場人物たちの家族との絆の深さが描かれる人間ドラマでもありました。
 事故に遭遇したのは、みんな休暇で家族の元へ帰る作業員ばかりだったのです。狼の襲撃に遭い、息を引き取るメンバーたちは、それぞれ残された家族への思いを口にします。彼らを看取ることになるオットウェイは、自身が愛する妻を失った喪失感を強く持っていたので、いたたまれません。喪失感により、一度は死も覚悟したオットウェイが生き残ってしまうのは、何とも皮肉なことでした。
 その中で、オットウェイは彼らの財布を形見として家族に届けることを自分に課せられた使命なんだと思い込み、一度は捨てようとした命だったのに、執念でサバイバルに挑んでいくのです。愛する人たちへの思いを胸に闘う人間の姿を、派手な見せ場を用意することなく描いているところがいいと思います。それゆえに主人公が生きるための本能をむき出しにしていく終盤が胸に迫ってきました。
 そんなオットウェイを突き動かしていたのは、負け犬のままでは終わりたくないというプライドでもあったのです。もう一度自分の納得できる強敵と闘って、打ち破ることが出来たらと常に自身のモチベーションを鼓舞してきました。自分の納得できる死に様を求めていたのかもしれません。ラストの闘志のたぎらせ方は尋常ではありませんでした。エンドロール後に描かれる安らかなワンショットとは、とても対称的です。
 生きる目的について、強烈に問いかけてくるラストだったと思います。

 CGに頼らない自然描写の迫力。特に手ぶれを活用した墜落や狼の襲撃を受けるバニックシーンの描き方は巧み。時折、映画館の座席から飛び上がってしまうほどの衝撃を受けました。そして演技もアクションも両立できるニーソンの魅力が際立った作品でした。

 ツッコミどころとしては、どうして飛行機事故を起こしたのに全く何日も救援が来ないのか、疑問に思えました。それと狼に追い詰められて、崖から飛び降りる決断を迫られるとき、狼か崖かオットウェイは残されたメンバーに決断を迫るのですが、結局崖から降りても狼は執拗に追いかけてくるのでした。話が違うではないかと思ったところです。

流山の小地蔵