「自称実話ものって卑怯やと思う」キラー・エリート 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
自称実話ものって卑怯やと思う
かつて暗殺グループのエースだったジェイソン・ステイサムは、今は足を洗い、恋人と静かに暮らしていたが、オマーン紛争で首長から息子の仇討ちを依頼され失敗した元相棒(ロバート・デニーロ)を救うべく一肌脱ぐハメとなり、標的のSAS(英国特殊精鋭部隊)の幹部達に闘いを挑むバイオレンスアクション。
あらすじから察する通り、複雑過ぎて何のこっちゃサッパリ解らない映画だった。
てっきりバイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパー作品(1977)の同名リメイクやと勘違いしていた自分に非があるとは云え、創り手の不親切な進め方に不信感が募った。
オマーン戦争やSASの組織構成、石油絡みの当時の国際情勢etc.事前に予習復習してるやろと勝手でどんどん進めるやり口は、高校時代の意地悪な世界史の先生を思い出し、苛立ちが脳髄を襲う。
それは、やがてすぐ睡魔に変わった。
そんな30年以上前の外国のゴタゴタなんざぁ知らんがな!の一言である。
スパイものって、黒幕の裏に黒幕がいて、更にその奥にまた黒幕が…という裏切りの連鎖が付き物やけど、さすがにもうウンザリだ…。
置いてきぼりにされる身にもなって欲しい。
第三者の国民にはなおさらである。
故に、凄まじい殺陣に感心が傾くのは必然的だが、冒頭に実話やと銘打っているため、超人的な切り返しが炸裂する度に、白々しく感じた。
椅子に縛られながらも敵を仕留めるなんてゴルゴ13でもムチャである。
第一、原作自体をイギリス政府は一切認めていない。
お笑い番組のプロデューサーの正体は殺し屋だった『コンフェッション』や、超能力者ばかりを揃えた特殊部隊を追った『ヤギと男と男と壁と』etc.と一緒で、そんなん言うた者勝ちやがなとツッコまざるを得ない…。
実話やと釘を射しといて、それは反則なのではなかろうか?
他の“自称ノンフィクションもの”は、笑いの要素が盛り込まれていたから、まだ許容範囲内だったが、今作は終始ドンパチ血祭りで、やかましくて頭が痛い。
仇討ちを正当化する敵・味方の了見うんぬん以前に、根本的に卑怯な映画でしかないと私は思う。
では、最後に短歌を一首
『砂を咬む 汚れた牙は 血にハメて 果てぬ仇討ち 真実を狩る』
by全竜