劇場公開日 2012年1月7日

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哀しき獣 : 映画評論・批評

2011年12月27日更新

2012年1月7日よりシネマート新宿ほかにてロードショー

政治的な荒海「黄海」の暗い歴史を上手く生かしたコリアン・ノワール

ナ・ホンジン監督のデビュー作「チェイサー」はノミが恐怖の小道具のメインだったが、今回の「哀しき獣」は手斧が縦横無尽、八面六臂の活躍をして、どさどさと死体の山が築かれる。古いアルバムの紙ジャケ再現が日本の新たな伝統芸になったように、この出口なし、これでもか、あれでもか、それでも、どうでもと突き進むスプラッタ表現は、もうコリアン・トラッドとしていずれ顕彰されるであろう伝統入りすべき領域だ。

哀しき獣」の原題は「黄海」である。中国、北朝鮮、韓国が対峙する巨大湾。最近のニュースは中国漁船と韓国水上警察の激突で韓国側に死者が出たことだろう。黄海はまさに公海の綱引きがある政治的な荒海であり、「哀しき獣」の主人公にとっては、後悔先に立たず、の航海の象徴なのだ。

中国の朝鮮族という存在に目をつけたところがわれわれには新鮮だ。漁船で黄海の荒波を越え、正規に、あるいは密入国者として韓国にやってくる朝鮮族。韓国での彼らの扱いはとても冷たい。韓国に出稼ぎに行き、消息を絶った妻を求めて、また朝鮮族ギャングの元締めから、ある男の殺害を請け負って、一人の男が韓国に密入国する。生活臭漂うノワールの定番だ。このグナムというキャラクターを演じたハ・ジョンウの面構えに派手さはなく、まさにリアルで説得的。その彼が多くの艱難(かんなん)を傷つきつつ乗り越え、最終的に罠にはめた元締めとの激闘へと展開するが、悪役に回ったキム・ユンソク(「チェイサー」)が、笑えるぐらいに無軌道、不死身。ラストの寂寥がいいんだな。

(滝本誠)

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