劇場公開日 2012年4月21日

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モンスターズクラブ : インタビュー

2012年4月20日更新
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豊田利晃&窪塚洋介、“尖った”ふたりが投じた小石の波紋

監督・豊田利晃と俳優・窪塚洋介には“尖っている”という形容詞がぴたりとはまる。たとえ時代が流れようとも自分の信じた方法で己の刃を研ぎ、確固たるスタイルを貫いている──。そんな彼らが初めてタッグを組んだ映画も、もちろん尖っている。その映画は、全米を18年間ものあいだ震撼させ続けたユナボマー事件に基づく「モンスターズクラブ」だ。優れた頭脳を持ち天才と呼ばれた男がなぜ爆弾魔になったのか。求めた自由とは何なのか。生きていくとは何なのか。すべての人をとことん考えさせる映画について、尖った2人に話を聞いた。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)

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もともとサリンジャーやグレングールド、鴨長明のような“世捨て人”と呼ばれる人に興味を持っていたという豊田監督は、ユナボマーのことも「昔から気になっていたんです。不思議な人だなと興味を持っていましたね」と述懐する。豊田監督のアンテナが自然とキャッチしたユナボマー(本名:セオドア・ジョン・カジンスキー)は、1970年代頃から山奥にこもり、参上社会の破壊を目的として爆弾を作っては送り続けた爆弾魔。彼が危惧していた社会システムの末路が「日本の現状に似ている」と感じた豊田監督は、「森」「雪」「小屋」というキーワードで映画を撮ろうとアイデアを練っているときにユナボマーを思い出し、その爆弾魔を主人公に据え「モンスターズクラブ」を執筆。そして、現代は「サバイバル能力が試されている」と、本作に込めたメッセージについて話し出す。

「どうやって生き延びるのか、サバイバル能力が必要な時代だと思っていて。ただ、僕の言うサバイバルとは(東日本大)震災があったからとかそういうものではなく、震災前からおかしい世の中だと思っていたその世の中を、どう生き延びていくかということ。震災前も今も権力を欲しいままにしているやつらが(世界を)牛耳っている事実を、分かりやすい形で提示できる題材が、ユナボマーだと思ったんです」

主人公、爆弾魔の青年・良一を演じるのは、豊田監督と4度目のタッグを組む瑛太。一方、幾度となく一緒に仕事がしたいと望みながら、なかなか機会に恵まれなかった窪塚にとっては「これ(この作品)だったんだな、という感じでしたね。うれしかった……」と、満を持しての豊田組参加となった。演じるのは良一の兄ユキ。良一の生き方を見守りながらも「生きる」ことの意味を問いかけ続ける亡霊のような存在、一筋縄ではいかない難役だ。「ユキのセリフを言えるのは窪塚洋介しかいないと思ったんです。窪塚くんがやってくれると言ったので(脚本を)書いてみたんですよね」

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窪塚は言う。「ユナボマーみたいな作品で、世の中に対して言いたいことを言う作品で、豊田さんに“やってくれないか?”って言われたら、そりゃ、やりますよ! 台本もすごく面白かったし、ユキという役は、自分自身が抱えている怒りとか思いを消化できる役でもあって。やりたい役を演じられるという単純なうれしさ以上のものがありましたね」。最高の賛辞をぶつけられた豊田監督も、負けてはいない。「窪塚くんはしなやかなんです。いろいろなタイプの監督がいると思いますが、僕は、監督のイメージしたとおりに芝居をしてくれる俳優よりも、多少イメージと外れていてもいいから本人の内側から出てくるものをはみ出して演じてくれた方が面白いと思うタイプ。窪塚くんは、おお、そうきたか! そいうことがたくさんあって、楽しかったですね。たとえば、あの階段をあのスピードで降りるのか! とか、そういうのも含めてね(笑)」

ということは、窪塚のなかにユキが存在するということなのだろうか? その問いに「いや……」と一呼吸おいて本人が答える。「僕が抱いていたユキというキャラクターのイメージは、原理主義者みたいにぐっと哲学に固執しているヤツですね。僕自身はユキよりももう少し柔軟だと思っていているけれど、たしかに、生身(の自分)に近かったとも言えます。でも、もともとある自分自身に何かを加えるというよりも引くっていう方がしっくりくるかな」。さらに、豊田監督の「人の人生って、終わる(死ぬ)と情報化されると思うんですよね。ああいうヤツだった、こういうヤツだったと、終わった瞬間に情報化され、閉じてしまう。ユキはそれを分かっている人でもあるんです」という解説を、窪塚が補足する。「だからユキはずるいんですよ。答えのところ(情報化されたもの)からやって来てしゃべるわけだから、生きている人間からしたらずるいわけで。思ったのは、本当はユキも良一みたいに世界を愛していて、でもそれを認められなくて、良一が羨ましくてこっちの世界に呼んじゃうのかなと」

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ユキの存在をはじめ現実的に存在しない幻を見続けた良一は、やがて爆弾を送ることでしか生きる意味を感じることができなかった自分と決別する日を迎える。そのラストには、反社会的な気持ち、未来に向かうための決意、さまざまな感情が渦巻く。そして「生きる意味は分からないけれど……」と、確かめるように豊田監督が続けた言葉は、映画を撮ろうと思った最初の思いにつながるものだった。「世界がこの後どうなるかを見たいという思いもあるけれど、やっぱり、どうやってサバイバルしていくか、生き延びていくかに尽きると思うんですよね。そのなかで大切なのは自分のスタイルを持つこと。僕がやれることは映画を作ることで、それ以上でもそれ以下でもない。投げた小石の波紋が広がればいいなと思うけれど、まあ、大体は無視されちゃうんですよね」と含み笑いするが、そんな心配をよそに、豊田監督が現代社会に投げた石(力強いメッセージ)は大きな波紋となり、多くの心に突き刺さることだろう。

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