目を閉じてギラギラ : インタビュー
「2時間くらいやったら、くったくたになった。全身、大筋肉痛(笑)。構えて待っているから(と腰を落とし)、太もものあたりはパンパンだし、腕もパンパン。次の日は使いものにならないから最悪。でもそのシーンがあったからね」
話はそれるが、その教訓が9月24日のプロ野球・横浜-広島戦での始球式に生かされた。横浜・三浦大輔投手との親交が縁で実現し、“番長”が用意した「SHOW」の名前が入った背番号18のユニホームで、88キロのストレートを外角低めに投げ込んだ。
「相当気合入れたよ。前々日と前日、当日の朝、そしてブルペンできっちり投げ込んだから。全然痛くならなかったし、完璧だったね」
ここにも、常に100%のパフォーマンスを見せようとする努力がうかがえる。だからといって、それを大仰にひけらかすわけではない。あくまでも自分自身にハードルを課し乗り越えようとするプロ意識。「俺にはリーダーシップはないから」と謙そんするが、その姿勢が周囲をひきつけてやまないのだ。今回も冨永昌敬監督の指揮下で、あくまで1俳優として取り組むことに徹したと強調する。
「いい薬味にはなりたいよね。監督がなべ焼きうどんを作ってくれないと、俺たちは力を発揮できないみたいなね。ピリッと効かせられるかどうかというところが、俺たちの役目だよね」
そして、Vシネマの全盛期をほうふつとさせる撮影を経ていく上で、確かな手応えをつかんでいった。
「俺も含めて全体としてのキャラクター像が明確だったから、見ている人が飽きないと思ったのがひとつの勝因。必死に生きていくというのがテーマ。いわゆる人生のリセット、復活、リベンジといった、誰でもまだまだいける、諦めちゃいけないというテーマ性がしっかりしていたから、これは面白くなると夜中の3時くらいに感じた(笑)」
作品と同タイトルの主題歌も担当。2009年「昆虫探偵」で主人公・ヨシダヨシミ名義で主題歌「生きていることがいい」を歌っているが、今回作詞作曲を手がけたのは一世風靡セピア、ソロ時代でタッグを組んだ後藤次利氏。約22年ぶりの邂逅(かいこう)で、哀川も共同で作詞に加わった。
「“主題歌が欲しいから歌いません?”って言うから、歌えというなら歌うよというそんなノリ。そうしたら次利さんが、詞の中に『目を閉じてギラギラ』のシチュエーションをきっちりと入れて送ってきた。それに俺が考えたことをバーッと書いてレコーディングのディレクターに渡したわけ。レコーディングも次利さんがいないのに始まったし、途中で入ってきたけれど、曲を聴いてゲラゲラ笑ってんの。ディレクターがおうかがいを立てても、“どうせこっちが何か言っても、好きにしかやらないから”だって。そんな面白いレコーディングだった。俺も歌い終わったら疲れ果てたけれど、個人的にはすごく気に入っている」
そうして完成した作品は、1シーン1カットを使ってしっかりとした間を取るなど、実に映画的な構成だ。既に週1回のケータイドラマとして配信はスタートしているが、いよいよ全編が一気に見られる劇場公開となる。これには喜びを感じるとともに、やはりVシネマ時代に抱いていた思いとのつながりを禁じえない。
「いやあ、うれしかったね。実際に見る人は1週間に1回だから、それを本編にしましたというのは形として美しい。作品をつくる思いを立証したような感じだからすごくいい。撮影は最高のシチュエーションでやっているわけだし、そこで映画、ドラマとは分けられない。(画面が)小さいからわからない。だったらスクリーンで見せてあげますみたいなところ。そうすると皆がえっ!? マジ!?って思う。興味がなかった人も、興味が出てくるんだよ。今は携帯だけのものになっているけれど、こういう違う動きをすると、またいろいろなことを考える人が出てくる。これだけ暴れ回れるんだから、ソフトの在り方がすごく面白くなっていくんじゃないかな」
Vシネマの帝王と呼ばれた時代から既に主演作は120本を超えながら、常に好奇心をもってバラエティやラリー(国際C級ライセンス取得)など新しいものに目を向け続けている哀川翔。ケータイドラマ→映画という新機軸への主演も必然だったのかもしれない。