「祖先から引き継いだものの大切さを感じる」ファミリー・ツリー マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
祖先から引き継いだものの大切さを感じる
小学生の次女の好き嫌いが分からず、高校生の長女とは感情のもつれからまともに会話ができない父親マットの奮闘を描く。
妻の浮気の真相究明と、祖先から受け継いだ広大な土地の売却という2つの筋書きが絡みあう。
妻のプライベートを知る人間はそこらじゅうに住んでいる。
土地の処分については、マットが全権を握っているものの、多くの従兄弟たちの意見を束ねる必要がある。その親戚は、オアフ島だけでなくハワイの島々に散っている。
どこに行っても知人と出くわすハワイという世間は狭いのだと実感する。
何も隠し事ができない、日本の田舎村のようなところだ。
仕事一本だったマットが、妻の事故と土地売却を機に、改めて人との繋がりを深めていく。
とりわけ、二人の娘との距離が縮まっていく過程が、ほどよい距離感を持って描かれる。
家族に金魚の糞のように付いて歩くシドが面白い。長女のボーイフレンドなのだが、口が達者で、人の気持ちを逆なでするいけ好かない少年だ。あまりの言動にキレたマットの「こいつはバカだ!!」に、よくぞ言ったと拍手したくなるぐらい生理的嫌悪を覚えるヤツだ。ところが、こいつがマットと娘や他の人達の間でクッションの働きをしていく。マットや観客のシドを見る目の変化を、ゆるやかに人間関係の修復に活かした脚色が上手い。
感情のスレ違いやもつれがあろうとも、この世に生を賜った証を、人は親から子へ、子から孫へと引き継いでいく。
なにを思っていたのか、その真実が明かされないまま昏睡するマットの妻エリザベス。彼女もまた、次代へ血を残した家系の一員である。二人の娘は彼女が生きた証なのだ。
なるほど予告篇のあのカットはここだったのかと納得するラストシーン。
二人の娘の真ん中で、まだまだ落ち着かずしっくりしない父親の様子が微笑ましい、いいラストだ。
将来、長女がシドと結婚したいと言い出したらマットはどんな顔をするのだろう?
まだまだキング家は前途多難なのだ。そうやって家系は引き継がれていく。