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◯作品全体
初見の時は「Don't Stop Me Now」のシーンが強すぎてそこに持ってかれたけど、改めて見るとエドガー・ライト作品の好きな要素がいろんなところに敷き詰められていたんだと気付かされた。
テンポ感のあるカット割りや音楽を使った演出もその一つだけど、個人的に好きなのは「変わろうとする主人公の変えられない大事なもの」が根幹にあることだ。
例えば『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』では酔っ払いのどんちゃん騒ぎがあって、世界を救う選択肢を提示されて…といろんなシチュエーションがあるけれど、友達との関係性がその根底に常時ある。彼女が出来たり、肩書が付いたりしてどんどん変わっていく人生の中で、昔からの友達はときに邪魔に見えたり、足を引っ張っているようにも映る。それでも安々とは切り離せない大事なものがあることを、コメディの中で見せてくれるのが好きだった。
『ベイビー・ドライバー』では音楽がその役回りだった。酸いも甘いも知り尽くした悪い大人と対峙し、好きな人を救い出すには成長しなければならない。その演出として音楽やカセットテープが蔑ろにされたり、切り離されたりしそうになるが、この作品でもそう簡単に手放そうとしない主人公がいた。
本作で言えばエドがその存在だった。作品冒頭から、エドの存在は主人公・ショーンにとって邪魔者にしか見えない。眼の前に彼女が居ても昔からの友達であるエドとの「身内ノリ」をそのままやってしまう。エドとの別れや衝突がショーンの成長の導線となりそうな冒頭のシーンである。しかし、予想できる展開にはそう簡単にさせていないところに、この作品の良さがある。ショーンはエドへ文句をつけたりするが、エドとの身内ノリを手放さない。そういう姿勢をフィクションでは「停滞」として描くが、この作品ではショーンがショーンで居られる存在としてエドが常時居たように感じた。パブの前でショーンがエドを叱るシーンはわかりやすい仲違いのシーンにも見えるけど、ゾンビが襲ってくるという非常事態でのやり取りというのもあって明確な対立として描かれていないのも巧い。
ショーンはリズとの関係性を改めるために変わろうとするが、明確に「変わった」というエピソードはほとんどない。無我夢中にゾンビから逃れようと必死になった姿がリズに響いただけだ。恋人・リズとの進展のために親友・エドとの関係を犠牲にすれば確かに成長に見えるかもしれない。しかし、ショーンにとってのエドは親友であり、変わらない自分で居させてくれる存在。そう簡単に犠牲にできる人ではないのだ。そう感じさせるストーリーが、とても好きだ。
ラストもリズとのハッピーエンドではなく、形を変えたエドとの友人関係で終えているのも素晴らしかった。
wikipediaには「公開時のコピーは"Rom Zom Com"だった(Rom=Romance, Zom=Zombie, Com=Comedy)」とあるが、それは表向きで、根幹にはあるのはエンディングで流れてくる「You're My Best Friend」なのだと、思う。
◯カメラワークとか
・序盤で多用されるアクションの強調とカット割りが面白い。露骨に強調されたSEとQTUで何気ない芝居もコメディチックに。
・同ポの使い方も面白かった。シェアハウスの洗面器の前でピートと話すシーンはゾンビ増殖前後にあるが、鏡でピートを映してサプライズを挿れるゾンビ前と、居ないことがむしろ恐ろしいゾンビ後、みたいな。
◯その他
・日常の景色に少しずつ違和感を映す感じが面白い。コメディチックに繁殖を映す演出。
親友との関係性だったり、その映し方は好きなんだけど、ちょっと物足りないって気持ちもあるんだよなあ。序盤でピートと鉄拳2の話をしてたり、パブで客の架空エピソードで盛り上がってるところが良すぎて、そういうところをもっと見せてくれ…!と思ってしまっているからだと思う。