劇場公開日 2012年3月24日

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テイク・シェルター : 映画評論・批評

2012年3月6日更新

2012年3月24日より新宿バルト9ほかにてロードショー

この恐るべき“悪夢”映画は、現代的な新種の“終末”映画だ!

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かつて冷戦時代に作られた多くの終末映画は核戦争の脅威に根ざしていたが、昨今のこのジャンルはぐんぐん多様化している。天変地異、ウイルス、環境破壊……。そして、ここに新種の終末映画が出現した。といっても都市や自然が破壊されるわけではなく、人っ子ひとり死ぬこともない。田舎町に住む主人公の脳内で進行していく、サイコロジカル“終末”スリラーというべき異色作である。

そのきっかけは主人公が悪夢を見たことだった。奇怪な暗雲が空に垂れ込め、ガソリンのような雨を降らす。この冒頭の悪夢のイメージが異様に生々しい。夢の中で飼い犬に噛まれた右腕は、目覚めてもジンジンと痛み続ける。この悪夢は安眠を妨げるだけでなく、主人公の日常生活までも狂わせていく。さらに恐ろしいのは、悪夢の原因がさっぱりわからないことだ。耳が不自由な娘の未来を案じたゆえか、トラウマに端を発する妄想か、はたまた超自然的な予知夢なのか? いずれにせよ原因を究明するヒマはない。容赦なく切迫感を増す悪夢は、今そこに迫る危機を告げているのだから。

ごく平凡な労働者であり、夫で父親でもある主人公を、突如襲う世界終焉の恐怖。せっせとシェルター作りに没頭する主人公の孤立感を残酷なまでに浮き立たせる新鋭監督ジェフ・ニコルズの演出力は、ほとんど悪夢映画の巨匠たるコーエン兄弟のレベルに達している。21世紀を覆う“漠然とした不安”をモチーフに、これほどまでにリアルな終末映画を生み出してみせるとは!

高橋諭治

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