劇場公開日 2012年3月24日

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「まるで『ローマの休日』のような一瞬の煌めきのなかで、マリリンの知られざる一面と出会うことでしょう」マリリン 7日間の恋 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0まるで『ローマの休日』のような一瞬の煌めきのなかで、マリリンの知られざる一面と出会うことでしょう

2012年4月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 全く期待していなかったのですが、なかなかいい作品でした。
 今年で没後65周年を迎えるマリリン・モンローですが、生前はセックスシンボルの面ばかりもてはやされたイメージが強いと思います。加えてケネディとの不倫や36歳での謎の死など、常にスキャンダルを追うマスコミの餌食となり、「魔性の女」に見られがち。そんなイメージで彼女の全てが明かされてきたと思っていた方が殆どではないでしょうか。

 しかし若き日のマリリンと7日間の恋を当時助監督だったコリン・クラークが回顧録で告白。長い間封印されてきたロマンスが明かされました。
 マリリンが初めて愛した年下の青年との恋を映画化したのが、本作です。撮影中に妊娠が発覚。それを聞きつけた夫が戻ってくることで終わったこの恋は、わずか7日間という短さを感じさせない瑞々しい純愛に満ちていました。時代のアイドルと恋に落ちるというのは、男の願望をくすぐるストーリーとして定番のメニューでしょう。いわば『ローマの休日』のような煌めきを感じさせる刹那に満ちあふれていたのです。
 しかも主人公の男目線で語られるこの物語は、マリリンの本心が最後までどうだったのか定かではありません。そんなミステリアスなベールに包まれていることも映画の余韻に浸るには充分すぎて魅力的な謎といえるでしょう。

 ストーリーは、ずばり不倫の一種ではあります。そんな不倫につきまとう淫らさを打ち消すくらいに、マリリンが負っていた心の機微に、思わず共感してしまうことでしょう。 主演のミッシェルが作り出したマリリンは、苦悩に満ちたか弱き女性としての存在でした。そんな弱き存在が、無理をしてメディアが作り上げたマリリン像を演じていたのです。 実際の彼女は、幼い時に精神病にかかった母親に捨てられたトラウマから、こころから愛される実感をもてずにいたのです。
 本作での彼女は新婚ほやほやでした。けれども夫を始め彼女を愛する男性とは、彼女が作り上げた「マリリン」というセクシーアイドルに恋したのではないでしょうか。彼女の心の不安を理解する男は皆無だったのです。
 加えて、30歳を迎えてセックスシンボルとしてでなく、演技派女優として脱皮を図るマリリンにとって、今回の撮影は大きなプレッシャーとなっていました。
 本作では触れられませんが、自らプロダクションを設立。演劇界からオリビエを監督兼共演者に迎えて、背水の陣で本作の劇中劇『王子と踊り子』に取り組んでいたのです。

 一方、マリリンと出会うになるコリンは、マリリンよりも7歳年下で貴族出身の映画青年。親のコネを使わず、無給の雑用係として撮影隊に参加したのでした。
 恋のきっかけもスリリングです。たまたま部屋に向かったコリンは、風呂上がりのマリリンの裸体を目撃してしまうのですね。
 ミシェルの役作りは、マリリンのものまねでなく、雰囲気で似ていないのにマリリンに見えてしまうことを目指したのだとか。バスタブでマリリン目線となってこちらを誘惑するように見つめられたら、コリンならずともくらくら、萌え~ときちゃいますよ。

 そんな純情さが、マリリンのお気に入りとなり、彼女担当の臨時マネージャーみたいになっていきます。マリリンと親しくなるなかで、コリンは実像の彼女をそのまま受け入れて、パニックになっている彼女の心に安らぎをもたらしたのでした。マリリンもまた夫が帰国したあと孤独や不安を癒やれるたびに徐々に彼に心を開いていくのでした。

 単なるメロドラマというよりも、撮影中にパニックに陥ったマリリンの心の機微をコリンの目線から、描き出すしている手法がいいと思います。
 そして、コリンのサポートで彼女が立ち直っていく過程に、きっと共感を感じることができるでしょう。あくまでプライトニックなふたりの関係は、お忍びのデートも凄くロマンチック。ふたりが全裸になって泳ぐ水辺のシーンは、思わず胸キュンとなるでしょう。
 こんな病める大物女優に付き合うことになった監督のオリビエの苦労も描かれて、映画製作の舞台裏も垣間見れる展開になっています。オリビエの伝統的な演技と、常にコーチが寄り添うマリリンの斬新な演技。火花を散らす2人の対立が実にスリリングで、本当に映画化完成するのか、先が読めない展開にドキドキ。このスリル感こそ映画製作の醍醐味であり、1本の映画作品が成立するまでの過程がしっかり描かれていく点で、本作もまた 『アーティスト』同様に映画愛に溢れた作品であると感じました。

 遅刻や撮り直しを繰り返す傷心のマリリンの所業も、本作を見ていくと、彼女の苦しみが手に取るように分かり、それも仕方がなかったことなのだと許せるようになりました。
 それにしても、体系も違うのに、マリリンを演じるミッシェルの役作りは凄すぎます。まるで魔法にかかったかのように、当時の本物のマリリンを見ているかのような錯覚に陥りました。サッチャーのコピーとなったメリル・ストリープと甲乙付けがたい演技だと思います。

流山の小地蔵