「ビョルン・アンドレセンの同性でも息を呑む秀麗さ、セリフはほとんどありませんが、グスタフを魅了する容姿には世界中誰もが納得したことでしょう。」ベニスに死す 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
ビョルン・アンドレセンの同性でも息を呑む秀麗さ、セリフはほとんどありませんが、グスタフを魅了する容姿には世界中誰もが納得したことでしょう。
早稲田松竹クラシックスvol.235/『退廃する街で』と題した特集上映にてフォルカー・シュレンドルフ監督『ブリキの太鼓』(1979)、ルキノ・ヴィスコンティ監督作品『ベニスに死す』(1971)の2本立て鑑賞。
『ベニスに死す』(1971年/130分)
記者会見でルキノ・ヴィスコンティ監督からまさに『世界で一番美しい少年』と絶賛されたタジオ役のビョルン・アンドレセンのその後の人生を追ったドキュメンタリー『世界で一番美しい少年 The Most Beautiful Boy in the World』(2021)とセットで鑑賞。
貴族出身で名匠と誉れ高いヴィスコンティ監督らしい気品高く耽美で退廃的な作品。
主な舞台になるベニスのホテルや街並みが光り輝く観光地から疫病により輝きを失う様や、海と空の青さ、音楽もマーラーの交響曲が主人公・グスタフ(演:ダーク・ボガード)の激しく揺れ動く心情を音楽で表現、もう一人の主人公といっても過言ではないですね。
『地獄に堕ちた勇者ども』(1969)、『愛の嵐』(1974)の名優ダーク・ボガードのタジオへの一途な愛情、かなわぬ想いへの苦悩、老いに対する抗いを見事に演じきっております。
そして本作を不朽の名作たる映画に押し上げたのはビョルン・アンドレセンの同性でも息を呑む秀麗さ、セリフはほとんどありませんが、グスタフを魅了する容姿には世界中誰もが納得したことでしょう。
ヴィスコンティ監督の審美眼の確かさと、ビョルンの少年から大人への一瞬の儚さを逃さずフィルムに焼き付けた奇跡的な出会いを感じますね。
本作以降「世界で一番美しい少年」と絶賛されたビョルンはステージママ(祖母)の強い意向もあり、本意ではない日本での歌手デビューをはじめとするアイドル活動や、醜い大人たちに翻弄され性的搾取も経験。
その際の心の傷からか老齢の彼は「美」に抗うかのように、全く身だしなみに無頓着で長髪に長髭、誰もがあの「世界で一番美しい少年」とは気がつかない風貌に変わり果て、『ミッドサマー』(2019)にも出演し衝撃を受けましたが、時より見せる眼差しは、やはり美男子です。
祖母の勧めに応じずオーディションを受けなければ、全く違うミュージシャンとしての明るい未来があったかもしれない、実に悲しい事実。
「ベニスの死す」という光が強いほど影は濃くなってしまうのでしょうか。