劇場公開日 2011年10月1日

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「“身の置き所のない主人公”の“身の置き所のある人々”を見つめることに終始付き合わされて…」ベニスに死す KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0“身の置き所のない主人公”の“身の置き所のある人々”を見つめることに終始付き合わされて…

2024年1月24日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

少し前に、久しぶりに「家族の肖像」を
観たところ、
急遽イタリアやビスコンティ好みの旧友と
会うことになったので、
話のネタにと、この作品も観ることにした。

しかし、主人公の特異な心理設定に加え、
平板なカメラワークと
登場人物にほとんど台詞が無いこともあり、
鑑賞のモチベーションを上げることに
苦労した。

なにせ、
英知や気高さによる健全な努力こそが
美を創造するとの持論の持ち主が、
モラルを超えた中で
天から降臨する感覚こそが芸術を生む、
君は凡庸な芸術家だと友人に論破されたり、
発表した作品が観客から非難された上、
娘を、そして多分妻も亡くし
“身の置き所のない主人公”が
“身の置き所のある人々”を
ただただ見つめるだけの主人公に
終始付き合わされるのだがら。

そんな彼は、ベニスで見つけた
天性の美少年への心の高揚から、
これまでとは異なるかのように、直感的に
作曲に挑むかのように見えたものの、
結局は美少年を求めさまよい歩く中で、
感染症で命を落とす。

しかし、
彼の末期の表情は喜びに溢れた印象だ。
美の降臨性を確認出来、
過去のしがらみから解放された喜びでも
あったのだろうか。

「家族の肖像」と共に、
キネマ旬報ベストワンに輝いた作品で、
両作品の主人公は共に、
己に無かった価値観への想いを残したまま
最後には亡くなるストーリーだが、
まだ“身の置き所を維持していた”
「家族の…」の主人公の能動的な生き様の方に
共感出来たような気がした。

KENZO一級建築士事務所