「美に翻弄され醜態を晒し殉死する、老芸術家の最期」ベニスに死す グスタフさんの映画レビュー(感想・評価)
美に翻弄され醜態を晒し殉死する、老芸術家の最期
トーマス・マンとマーラーとヴィスコンティによる美学と醜悪のデカダンス。原作の設定では小説家のアッシェンバッハを、モデルのマーラーに合わせて作曲家に変更して、全編に渡り交響曲第5番のアダージェットを使用しています。アッシェンバッハの葬送曲なら第9番のアダージョが合理的ではと思うも、水の都ベニスの映像と調和するアダージェットが素晴らしい効果を生んでいます。例えば、ベニスを離れようとして駅に向かう時の重く沈み込んだ表情と、荷物の不備に託けて再びタジオに会える喜びに浸る対照的な両面でアダージェットは、アッシェンバッハに寄り添い同調し、且つ悪魔的な誘惑としての曲のイメージもあります。
映画は原作のベニスを訪れる動機の導入部を省略し、アッシェンバッハを乗せた蒸気船が海を進むシーンをタイトルバックにしました。空と海の境界のない灰色の世界からゆったりと現れる蒸気船と遠浅の海岸線のカットバックが素晴らしいです。音楽と映像の融合はラストショットまで完璧です。砂時計の逸話で語るアッシェンバッハの最期は、すべてが落ち切ってから、つまり誰にも見送られることなく現生を去る事になりました。死と恍惚のなかタジオに手を差し伸べ息絶えるアッシェンバッハの、美に捧げた生涯といえる最期が唯一の救いです。
ヴィスコンティは後期ロマン派音楽のブルックナーを何度か使用しています。「ベニスに死す」から5年後の亡くなった時の記事に、最後はブラームスの交響曲第2番を聴いて静かに眠りについたとありました。マーラーやブルックナーではなくブラームスと知って意外な印象を持ちました。それでも充実した巨匠の生涯を想像させます。
クラシック音楽では制作当時マーラーブームが始まろうとしていた時代でした。私自身もこの映画の関心から、マーラーを知り、ワルターやバーンスタインそしてテンシュテットが指揮するマーラーの音楽の虜になっていきました。
共感ありがとうございます。
トーマスマンの原作では主人公は小説家でエッシェンバッハなのですか?
それをマーラーに変更して、流れる楽曲も、マーラーの第五番交響曲の
「アダージェット」に変更したのですね。
最初にこの映画を観たときは、良さがほとんど分かりませんでした。
少年の美しさにばかり目が惹きつけられるばかりで。
年齢を経て見えてくる世界がありますね。
前からお聞きしたいと思っていたのですが、
GUstavさんのお名前はGustav Mahlerからつけられたのですか?
クラシック音楽にも本当にお詳しくて。
そしてミュージカルもお好きと伺っております。
私はピアノ曲はある程度知っていますが、交響曲はあまり詳しくないのです。
また色々教えて下さいませ。
おはようございます。ありがとうございます。さすが、お名前にたがわない♥
出会いの場面、もう一度見ました。どこかで聞いたなぁと思っていましたが、『メリー・ウィドウ』とは、まだまだ、オペラも初級なので、見落としていました。メリー・ウィドウはまだ、METオペラで拝見していませんでした。但し、曲はアンドレ・リュウのCD で聞いていました。
3番も聞いてみました。ブルックナーかベルリオーズが最長と思ってました。曲も壮大で良い曲ですね。amazonで探して、お気に入りに入れます。
まだまだ、クラシックは初心者故、今後ともよろしくお願いします。
何しろ、僕は貴殿の様にこまめにメモしないので、とも反省して、現在ノートをしたためています。ありがとうございました。