「エイリアンだけでなく、物語の背景も登場人物もみんな不気味。」エイリアン3 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
エイリアンだけでなく、物語の背景も登場人物もみんな不気味。
最新作『エイリアン ロムルス』鑑賞前にBlu-rayで復習。
1992年の劇場公開版(115分)と2003年にソフト化された完全版(145分)。
デヴィッド・フィンチャーのデビュー作にして、恐らく彼の黒歴史的一作。興収は前作を若干上回ったようだが、製作費は前作の3倍弱を投下しているので大きな見込み違いだっただろう。批評家にも酷評された。
脚本にはデヴィッド・ガイラーとウォルター・ヒルの名前もクレジットされている。
全米脚本家組合のストの影響もあって、脚本の制作は混迷を極め、ストーリーは二転三転したようだ。
前作でリプリー(シガニー・ウィーバー)が熾烈な戦いの末に救った少女ニュートが死んでしまっているという、なんと残酷な幕開けか。
LV-426を脱出したリプリーは冷凍睡眠中に流刑惑星フューリーに不時着した。凶悪犯罪の受刑者たちが強制労働に就いているこの惑星は、ウェイランド・ユタニ社が運営している民間施設のようだ。
この会社が日系企業であることが強調され、漢字の標語が掲示されていたりする。ユタニは〝湯谷〟だった。
受刑者たちの労働は核廃棄物用の鉛の容器を作ることだ。巨大な熔鉱炉で鉛を溶解して鋳型に流し込んでいる。
職員は所長(ブライアン・グローヴァー)と副所長のミスター85(ラルフ・ブラウン)の二人と、元囚人のクレメンス医師(チャールズ・ダンス)しかいない。
後は25人の囚人が労働しながら自活している。
クレメンス医師に救助されたリプリーは、なぜか“中尉”になっている。二等航海士兼荷役作業員だったはずだが…。
囚人たちが犬を連れて墜落した脱出艇の中を確認し、生存者を1人発見するのたが、完全版ではクレメンスが海岸に投げ出されたリプリーを発見して救助する。
脱出艇にはニュートの他にヒックス伍長もいたはずだが、脱出艇にエイリアンの痕跡を見たリプリーが寄生を懸念するのはニュートだけだ。
この映画の難点は、宗教じみているところだ。
登場人物がほとんど囚人だから、みな怪しげだったり狂気じみていたりして、意味不明の言動も多い。
画的には、暗くジメジメしていて徹頭徹尾不気味なお膳立てがされている。
この画作りは、フィンチャーの次作『セブン』にも取り入れられている。
惑星自体が刑務所だからそこには武器がなく、リプリーと囚人たちは迷路のような通路を使って熔鉱炉にエイリアンをおびき出す。
ここで特筆すべきは、獲物を追うエイリアンの目線カメラだ。
通路を逃げる人間を追うエイリアンは、壁や天井を縦横無尽に這って走るから画面も縦に横に回転する。その目線の先に見え隠れする恐怖にかられた人間の後ろ姿には臨場感がある。
ほとんどの囚人たちが犠牲になりながら、遂に煮えたぎる鉛を浴びせることに成功するが、エイリアンはそこからも這い上がってくるというホラーらしい二弾落ちもある。
リプリーはエイリアンのことを「私が見てきたのとタイプが違う」と言う。
エイリアンは寄生した宿主と同じ形態に成長するようで、犬に寄生して生まれたエイリアンは四足歩行なのだ。
完全版では牛から生まれるのだが、犬に変えた理由は分からない。
そして、本作のエイリアンは明らかに人を〝捕食〟している。囚人たちは襲われるが寄生はされない。前作までは捕食するイメージはなかった。
このエイリアンはクィーンではないから卵を産まないのだ。よって、本作はシリーズで唯一、フェイスハガーといわれる顔に貼り付く幼体が登場しない一編となった。
実はリプリーはエイリアンに寄生されていて、それがクィーンだと(なぜか)分かる。
自分は死ぬ運命にあり、クィーンが体内にいるうちに殺さなければならないという状況での戦いなのだから、完結編の位置づけだったのかもしれない。
結末も宗教くさくなっている…。