「完全版は牛か…」エイリアン3 Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
完全版は牛か…
シリーズ中最も難産であり、その後悪名高い作品としてたまにイジられたりするのが本作である。雰囲気こそ第1作に近い物があるが、過去作に共通していた恐怖感や、畳みかけてくる様な興奮があまり感じることが出来ない、何とも微妙な出来の作品だ。
前作でリプリーが必死に守り抜いた少女もあっさりと亡くなってしまい、勇敢に戦ったヒックス伍長も酷い死に方をするという、前作ぶち壊し設定になっており、前作のファンは怒るだろうなと初見時にも思ったのを今でも覚えている。当時27歳のデイビット・フィンチャー監督だが、現在溢れに溢れているセンスはまだ光っていなかった様で、演者サイドとも険悪な関係になり、あれもダメこれもダメで怒りを爆発させた監督には同情したい。20世紀FOXより本作の完全版のBlu-rayが発売されたが、それの特典映像にさえ監督は出演しないという徹底的な対応である。「監督業を続けるくらいなら癌で死んだ方がマシだ」と言い残し、その後数年間脚本すら読まなかったという監督の当時のストレスは計り知れなかっただろう。
前作、前々作が"良すぎた"というのもあるかも知れないが、本作も中々インパクトを残してくれる部分もある。
一番に挙げられる例としてはシラミ対策でリプリーが坊主頭にしたという事。男しかいない囚人惑星で、少しでも馴染む為という理由でもあるが、対エイリアンの決意を感じさせる一幕でもあるのだ。
また、前作で宇宙を何十年も漂流しているうちに娘が自分の年齢を追い越し、亡くなってしまうという事実を知らされる訳だが、宇宙にいるせいかリプリーの家族像がイメージしにくいという部分があった。それが本作では直接は描かれないものの、クレメンス医師とベッドを共にする展開があったりなど、今までのリプリーのイメージを変える様なシーンが描かれているのもポイントである。言ってしまえば、「人」としてのリプリーが見れる最後の作品であるという訳だ。
ゼノモーフに関しては1体のみの登場となるが、それもテンションを下げる要因で、前作であれだけドサドサ出てきたのに対し、原点に帰るイメージなのか1体に戻ってしまうと、やはり見た目的な楽しさは半減してしまうのは当然の事だ。92年の劇場公開版では犬から生まれ、本編145分の完全版は牛から生まれる設定の、四足歩行で素早く移動できる新種である。過去のゼノモーフとの違いは、初めて人を"喰う"描写があり、血糊も大増量した点だ。色々と初めて尽くしだが、素早く移動する分、全身VFXで描かれてしまい、当時の技術では合成感丸出しなのが残念だ。やはりエイリアンはアニマトロニクスに限ると思わせられた瞬間である。
先ほど述べた通り、男しか居ない囚人惑星で、YY染色体保有者と言い、レイプや殺人を犯したいわゆる凶悪犯のみが収容されている場所の為、秩序を保つ為に、ルール作りの根底として"信仰心"が存在している。完全版ではよりその点について触れるシーンがあるが、やや説教臭く感じる一方で、リプリーという初の女性の登場で欲を抑えられない連中が現れたりなど、居心地の悪いギャップが生まれて作品に深みを落としている。
だが、SF映画の金字塔とも言われるシリーズがもしこれで完結となったら個人的にも満足出来ないだろう。興行的には大失敗とまではいかなかったものの、何かと不運な作品である。