「久々に個人プレーで魅せる矢口マジック」ロボジー 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
久々に個人プレーで魅せる矢口マジック
『ウォーターボーイズ』
『スウィングガールズ』
『ハッピーフライト』
と、団体芸で笑わせるプレーを十八番とする矢口史靖だが、金属をまとった偏屈爺さんという一人の強烈なキャラクターが周りを振り回す今作は、個人プレーの要素が強い。
スパイスに毒っ気を盛った『ひみつの花園』etc.初期の傑作を思い出し、監督自身の笑いの原点回帰とも云えよう。
西田尚美、田中要次、竹中直人、田畑智子etc.矢口映画の常連が脇を固めているのも長年のファンとして嬉しい仕掛けである。
アシモのぎこちない動きはデビュー当時から気になっていたが、最先端技術の華であるロボットの正体がヨボヨボ爺さんだったというアナログの極みを配置させ、キチンとエンターテイメント化する発想力と実行力の勝利やと思う。
アシモの中身がもし本当にFUJIWARA原西やったら…をストーリーにしたらおもろいやろなって単純なアイデアのそれ以上でも、それ以下でもではない絶妙なバランスに成り立っている。
皮肉の効いたギャグをテンポ良く注ぎ込む一方で、家族と疎遠となった老人の孤独や、嘘を突き通そうとする会社の隠蔽体質etc.洒落にならない深刻なテーマも躊躇なく盛り込み、ビターに仕上げ、笑いながら考えさせる世界観も矢口史靖やからこそ成せる名人芸技であろう。
業務すっぽかし、人を騙す事で頭が一杯なのは、ミートホープや吉兆に通ずる卑劣な行為そのものだが、嫌悪感より
「彼らも大変やな…」って同情が上回ったのは、騙す側も騙される側にも詐欺事件としての罪悪感が存在していないからやと察する。
つまり、みんなイイ人なのだ。
イイ人がイイ人を追い詰めていくのである。
せやから詐欺事件って無くならないんやろね。
苦し紛れの最たる手段ゆえ、誰でもすぐバレるのはわかりきっているため、コスプレショーの時点で物語は破綻してしまっているが、正月明けの疲労が溜まり、気楽に笑いたい今には最適な一本ではなかろうか。
オチのトリックが酷過ぎやけどね。
まあ、そういう有り得ないグダグダな味わいも矢口イリュージョンなのかもしれない。
『エンディングノート』に続いて波瀾万丈の老後を考えながら、最後に短歌を一首
『化けの皮 嘘で固めし カラクリは アタフタ前へ 骨折る未来』
by全竜