るろうに剣心 : インタビュー
佐藤健×武井咲×蒼井優×青木崇高×田中偉登×大友啓史監督
大友組が自由と信頼感のなかで到達した新たなステップ
「おろ?」というとぼけたセリフに、左のほほに大きく刻まれた十字傷――誰もが一度は目にしたことがある、最も有名な剣客ではないだろうか。その名は緋村剣心。「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された、和月伸宏氏の人気剣客漫画「るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―」の主人公だ。ド派手な殺陣と次々と繰り出される技の数々。実写化は不可能だと思われた同作に、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」で知られる大友啓史監督、佐藤健、武井咲、蒼井優、青木崇高、田中偉登の若き俳優が挑んだ。映画.com編集部は、熱気が立ちこめる撮影現場で、人気原作の実写化という難題に挑戦した6人の話を聞いた。(取材・文/編集部)
「龍馬伝」以来の再結集となった佐藤、蒼井、青木。彼ら大友組が培ってきた空気のなかに武井、田中が新たな風を吹き込む。カメラを通して、5人の役者と向き合った大友監督が「民営化1作目なので気合いが入っています(笑)」と自信をのぞかせたように、撮影当初から大友組のチームワークは抜群だった。
主人公・剣心(佐藤)は、かつて“人斬り抜刀斎”の異名で恐れられた伝説の暗殺者だ。明治維新という時代の変わり目を契機に、自らの過去を封印し、町から町へと流浪の旅を繰り返す。しかし、自らの名を語った残虐な殺人事件が発生していることを知り、己の過去と向き合うことを決心。神谷薫(武井)、高荷恵(蒼井)、相楽左之助(青木)、明神弥彦(田中)らとの出会いが、剣心が閉ざした心と向き合うきっかけとなる。
原作の魅力のひとつは、キャラクターごとに確立された個性だ。「漫画の実写化は難しい」という大友監督は、映像化するにあたり画面に映るキャラクターを“生かす”ことを重視した。「漫画は漫画で、映画は映画。そこは張り合ってもどうにならないから、実写映画としての世界観をちゃんとつくらないといけないんですよ。漫画は二次元だけど映画は三次元で、生身の人たちが演じるわけだから、彼らの感情を大事にしたい。映画は漫画と違って生活感があるから、スーパーヒーローだけど汗をかいたり、生身の人間であるということをしっかり押さえていけば、映像として強いものが生まれるんじゃないかなと思ったんです。どうやって生身の人間として、フレームの中に存在してもらうかということを念入りにやりました」
画面のなかで生きることになった俳優陣は、強烈なキャラクターとどのように向き合い、形にしていったのだろうか。強さと繊細さを兼ねた薫を演じた武井は、原作を読んだことはなかったそうだが、健気なヒロイン像に並々ならぬプレッシャーがあったようだ。しかし、演じるなかで確かな手ごたえを感じるようになった。「漫画の薫ちゃんを演じなきゃいけないというプレッシャーがすごく重くのしかかってきて。でも、負けてはいけないと思ったし、プレッシャーは悪いものではないと思うんです。自分でいい方向に変えていかなければいけない。芝居をするなかで、薫ちゃんが自分になじんでくる感覚を感じています」
「蟲師」「ハチミツとクローバー」など漫画原作の作品に出演してきた蒼井は、これまでの経験から持論を展開する。「原作に敬意を払うためにビジュアルを似せるけれども、固執しすぎる必要はないと思っています。今回も、私は恵に似ていないと思うんです。私が演じるうえで、恵のビジュアルを似せるのは限界があるかもしれないけれど、中身でフォローしていきたい」。5人のなかで最年少の田中は「黒いパウダーみたいなものを顔や髪、爪のなかまで入れられて(笑)。日にちが経つごとにだんだん真っ黒になっていって、似ているんじゃないかな」と出来上がりに自信をのぞかせた。
“ケンカ屋”になりきった青木は「映画が出来上がったとき、そこにキャラクターがいたということが、ビジュアルだけではなく、多面的なアプローチから伝わればいいなと思います。人物イメージの方向が一緒だったり、合点がいけばいい。何10年後、漫画と映画のどちらが先にあったのか知らない世代が映画を見て、『どっちが先なの?』と思うような作品になっていると思います」
実写化における最大の障壁となったのは、アクションシーンだ。「殺陣は芝居と一緒で生き物」だと言う大友監督は、CGではなくあくまで人力でのアクションにこだわった。「超人的な技を実写化するのは引いちゃうんだよね。できるだけ、人間ができることにしておくという発想を持っています」。そして、ハードルの高い大友監督の要求に、佐藤はしっかりと応えている。「実写化で1番気になる点はアクションだと思った」と原作ファンの視点に立ち、クランクイン前から徹底した訓練を積んだ。撮影が始まった昨年8月の段階では「何回も練習するんですが、現場の本番で出しきらなければいけないところが難しい」と語っていたが、クランクイン間近の段階では「原作に忠実というよりも、僕の理想の剣心像を演じている。今まではいい感じ」と目を輝かせた。
4か月あまりの時間が費やされた今作の撮影。佐藤が長期にわたりひとつの映画作品と向き合うのは、今回がはじめてだ。「普通の現場は撮影中に振り返ることができず、どんどん先へ進む感じなんです。でも今回は、ワンシーンをゆっくり撮る分、達成感がすごくあって、パズルのピースがひとつずつ集まっていく感じ。作品が出来上がっていくっていう実感があります」。さらに、最強の敵・鵜堂刃衛として登場する吉川晃司と、初対面を果たした。「ダークヒーローな感じですごく格好いいですね。役を離れると、すごく優しい方なんです」と、大先輩に尊敬の眼差(まなざ)しを注ぐ。
映画をはじめ、多くの作品に引っ張りだこの俳優たちをひきつけてやまない大友監督。その撮影現場は特殊で、2台のカメラが回るなか、長回しによる撮影が行われる。俳優陣はどのような魅力を感じるのだろうか。
「役に対して信頼してくださるんです。『現場ができたので役として生きてください』というだけで、細かい指示もなく、好きにやってくださいと言われて(笑)。でも、それってとても信頼していただいているということなんだと思います。やらねばと思うし、やりがいを感じますね」(佐藤)
「長回しを経験したことがなかったので、『どこでカットがかかるのか』『どこから芝居をはじめるのか』、今まで気にしていたことを考えちゃいけないというのが初めてで、新しい世界に飛び込んだという感じでした。監督に、どうしてこういう撮影をするのかを聞いてみたら『何度もやっていくうちにすごく生々しい芝居になっていくし、後半になるにつれて感情が入っていく。役が自分になじむ、通しで撮っているからこそ生まれる瞬間がある』と説明してくれて。全部全力でやることが生々しい芝居に見える、それが大友さんなんだと思いました」(武井)
「監督がタフであるということ。大友組は、考えられないくらい過酷な環境だったりもするんです(笑)。そんな状況が逆に『オシッ』って思わせる。人をマイナス思考にさせない、タフにしてくれる現場だと思います。最初に動きが制限されることもないし、気合いは入っているけど無駄に力むことはないかな」(蒼井)
「好きに動いていいと言ってくれるんですが、実は自分が役について考えているかということを試されている気がします。毎回同じ動きじゃなくてもいいし、タイミングがずれたりするんですけど、そこで生まれるアクシデントに、人間らしさや何かが生まれる瞬間を監督は見つけているんですよね」(青木)
「弥彦は元気な役だけど、最初僕はあまり元気がなかったんです。でも、現場に行くと監督が僕を笑わせて元気にしてくれて、そのまま楽しく芝居に入れました。面白い人です!」(田中)
彼らの話に耳を傾け、時折ニヤリとした笑顔を浮かべた大友監督。「撮影現場って段取りもあるし、手続きだらけになってくるんですよ。でも、手続きや決まりごとが性に合わないんですね」と明かす。撮影現場で見せる“大友流”スタイルによって、自らと役者を解放し、新たなものを発見する。「撮影現場に入るほど、どうやれば自由になれるかを考えているんです。スタッフも役者も自由になってほしい。勝手にやってくれないかな、知らないうちに映画が出来上がってないかなって(笑)。いろんなことを考えながらやっているんですけど、1番強いものは自由。みんなが自由になったときに、何かすごいものが生まれるんじゃないかと思っています」