劇場公開日 2012年8月25日

  • 予告編を見る

るろうに剣心 : インタビュー

2012年8月22日更新
画像1

吉川晃司×江口洋介×香川照之×大友啓史監督
若手との対じで生まれた新たなダークヒーロー

世代を超えて愛される作品は、主人公はもちろん、悪役が魅力的だ。和月伸宏氏の人気剣客漫画「るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―」も、例外ではない。複雑な過去を背負い、己の美学を貫く。根強い人気キャラクターを実写化するにあたり、大友啓史監督は個性的な顔ぶれをそろえ、新たな“鵜堂刃衛”“斎藤一”“武田観柳”をつくり上げた。吉川晃司、江口洋介、香川照之は、孤高のダークヒーローとどのように向き合ったのか。佐藤健ら若い才能と激しく火花を散らす3人の姿を目撃した大友監督とともに、語ってもらった。(取材・文/編集部)

画像2

原作者・和月伸宏氏は、実在する人物をもとに斎藤、観柳というキャラクターをつくり上げた。個性的なルックスで強烈なインパクトを放つ刃衛は、和月オリジナルの存在だ。3人の“悪”は、さまざまな角度から、剣心のなかに眠る“人斬り”を呼び覚まそうとする。吉川、江口、香川はそんな“強敵”と自らを同化させ、圧倒的な存在感を生み出した。

江口扮する斎藤は、剣心の宿敵として人斬り抜刀斎の顔を知る数少ない人物。新撰組の信念を貫くため、警視庁の密偵として暗躍する。“牙突”など原作ファンおなじみの技に挑戦した江口は、 「大友ワールドのなかで本当に自由にやらせてもらいました。これはすごい映画になるんじゃないかなと思った。(現場に)来るたびにものすごい発見があって、演じながらどんどん膨らんでいく。頭で考えてきた芝居を壊しちゃう」と確かな手ごたえを感じている。初タッグを組んだ大友監督も「背中からにじみ出るニュアンスがある。2次元の漫画に対抗できるのは、3次元の生身だからこそ表現できるキャリアやセンス。幕末の激動の時代を生きてきたというバックグラウンドを付加してもらっている」と手放しに絶賛する。

香川は、新型阿片の密売に手を染める悪徳実業家・観柳を熱演。見せ場のひとつである観柳邸での対決では、屋敷に乗り込んだ剣心たちに向け、ガトリングガンで銃撃を浴びせる。「龍馬伝」で大友監督の現場を経験した香川は、「『俳優は遊んでいればいい』というやり方は、昨日今日やってできるものではないんですよ。21世紀的な新しいやり方が好きなので、今後も続けてもらいたい」と全幅の信頼を寄せる。15センチ以上のヒールを履き、「観柳だったらこのセリフを言うだろうなって。アドリブの感覚がないんですよね。脚本にない部分を再現するのが役者の使命だと思うし、そうできる空気が転がっている」と“香川流” 観柳になりきり、大友監督の狙い通り「束になってもかなわない、巨大でチャーミングな複雑な観柳という悪」を完成させた。

画像3

特徴的な着物に、白目と黒目が反転した奇異なルックスの刃衛。吉川は、殺人欲に駆られる浮浪(はぐれ)人斬りを演じた。「あまりセリフがない方が楽なんですよ(笑)。シルエットで醸し出せたらいいなあって。自分としてはやりやすい役かな。でも、持っているものを全部使って、カラカラになっちゃうかも」と全力宣言。「それまで曇っているのに、ある瞬間日差しが出てくる。スターは違う」と吉川に魅了された大友監督は、剣心と“人斬り”という共通項を持つ刃衛を「傍若無人に斬っていくっていう狂気の部分と、ただの人斬りではない匂いを持たせたかった。映画独特の存在感を考えたときに、脚本を書いている段階から吉川さんをイメージしていた。原作が漫画だと着地点をちゃんとさせるのが難しい。漫画から浮ついた感じにならない特別なものを入れ込むときに、吉川さんのキャラクターとはまり込んだ」と明かした。「吉川さんはオーラやたたずまいが映画人。でかい画面の真ん中に、デンといる年輪を感じる。存在自体でドカンと勝負できる人は、すごく魅力的」と太鼓判を押された吉川は、「デビューしたころに、原田芳雄さんや山田辰夫さんに教えてもらった。ふたりにはブッ飛ばされたりしながら、『顔で芝居をするな。体全部でやれ』と教わってきた。それが根幹になっているんでしょうね」と往年の先輩に思いを馳せた。

今作に登場するキャラクターは、“光”と“影”それぞれの道を歩む。剣心役の佐藤を中心に武井咲蒼井優青木崇高ら若手俳優が対じするライバルキャストに、“大先輩”をキャスティングした意図はどこにあったのだろうか。大友監督は「2次元で出来あがっているイメージって、すごい強敵なんです。漫画はもう一回読み返したり、自分の時間軸で読むことができる。だから、読んでいるファンのなかで、キャラクターのイメージがすごく広がっている。2次元のなかで積み重ねたファンの重みがあるんです」と実写化の難しさを語る。

「薄っぺらなものでは、2次元のイメージに対抗できない。生身の力のある俳優が魅力的に肉体化してくれることで、佐藤“剣心”がより巨大な敵に立ち向かい、乗り越えるというドラマの醍醐味が生まれる。あえてハードルを高くして、『潰すぞ剣心! 潰されるなよ健!』っていう気持ちでキャスティングしたんです。いろんな意味でキャラクターが強く、漫画に負けない濃い人を意識的に集めて、ハードルを高くすることで、若い子がどう向き合うのかを見る。ジェネレーションバトルではないけれど、お互いに刺激し合う面白さがあると思うんです。自分たちでは気付いていないけれど、若い人たちは敏感にそれを受け止めて芝居をしている」

実際に若手勢と刃を交えた3人は、彼らの熱気から何を感じたのか。

「(佐藤ら)若い俳優たちからしてみれば、すごく年上に感じるかもしれないけれど、僕は同じ漫画のキャラクターという目線でいたいと思うし、やっているときは年齢差は考えずにと思っています。逆に、新しいものを見たいし感じたい。年上だろうが年下だろうが、役者だったら肌合いで感じる。健くんも佇まいだけで語っているものがあるし、なかでうごめいているものを表現している。自分が彼の年のときに同じことをやっていたかと考えたら、やっていなかったかな(笑)。そういう面でもすごく刺激になる」(江口)

画像4

佐藤健という男は、ほかの若い俳優とは一線を画した怪物感がある。物怖じしなさは天下一品だし、器用さとそうでないものを両方持っていて、完成されている。現場で見る佐藤健は大物ですよ。オレら40代の人間は、20代のころにすごいプレッシャーを受けてきたから、柔らかく隙をつくってあげることが、若手俳優とやるときのポイントだと思っています。なめきってもらうってことが僕たちの使命で(笑)、そうすることでどんどん若い人たちが出ていく。特に佐藤、武井のふたりは実態がつかめない。ほかの俳優や女優さんと一線を画している気がするね。すごい俳優になると思いますよ」(香川)

「みんな勢いがあるし、エネルギーがあって素晴らしい。健くんは少林寺拳法やダンスをやっていたり運動神経がいいし、負けん気も強そうでいい。オレ、彼みたいな役者が好きなんですよ。武井さんも手足を縛った状態で階段から飛び降りて、『イタズラしちゃった』って。強いものを持っているんですよね」(吉川)

取材中も並々ならぬ熱気が立ち込める今作は、大友監督が放つ独立第1弾だ。「龍馬伝」時代から大友監督を知る香川は、手放しで称賛を送る。「大友啓史という男は本物。最初からどう見ても規格外だったので、いるべき場所にやっと戻ったという感覚で僕は見ています。ものすごく感覚的で、モニターの前にいるときのセンス・感性が人間の感性に正直。日本のサイズではないんですよね。これから多くの本物の方と出会って、本物の映画をつくっていくと思う。どんな作品でも、そこに流れている空気は確かなものであると今回再確認したので、僕も誇らしい」

今作でも多くの個性をまとめ上げている大友監督は、「(NHKを)辞めて、びっくりするけど違和感がない」と現在の心境を吐露。「アクションエンタテインメントという、社会性から少し肉体的な生身で勝負することができる。バイオレンスや激しいアクションに出合うことで、表現の幅が広がっている」と新境地を開拓している。しかし、「自由に遊ぶ」というスタイルは崩さない。「どのくらい自由にできるかで、題材が輝くかが決まる。一緒に走りながら、考え方を共有できるかで変わる手法なんです。僕の頭のなかをどれだけ越えられるかが勝負で、俳優部やスタッフがどれだけオーバーしてくれるかによって世界観が広がっていく面白いスタイルなんです」

インタビュー2 ~佐藤健×武井咲×蒼井優×青木崇高×田中偉登×大友啓史監督、大友組が自由と信頼感のなかで到達した新たなステップ
関連DVD・ブルーレイ情報をもっと見る
「るろうに剣心」の作品トップへ