劇場公開日 2012年5月26日

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「ヘミングウェイならウディ・アレンを殴る?」ミッドナイト・イン・パリ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

1.0ヘミングウェイならウディ・アレンを殴る?

2021年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ウディ・アレンの映画は2、3本しか見ていないが、どれも男女のカップルが知的でお洒落で恐ろしく退屈な会話を延々と繰り広げてすれ違い、主人公がまた退屈極まりない思いを吐露しながら、どうしようもない日常がだらだらと続いていく…というパターンだったと思う。

本作も同工異曲で、パリを訪れたアメリカ人カップルが、延々とつまらない日常会話を繰り広げて行き違い、主人公は今度はパリに集まる過去の文化人たちと交流する夢に耽るというお話。この人は何本撮っても同じものしかできないのだろうか。

夢の中で出会う文化人たちとの会話には、知的クスグリがたっぷり仕込まれているようで、小生にはT・S・エリオットに向かって「ハリウッドではマリファナのスプーンで人生を測ってますよ」と主人公が語りかけるシーン(これはエリオットの「ぼくはコーヒースプーンで人生を測りつくした」という詩行のパロディ)と、映画監督ブニュエルに代表作『皆殺しの天使』のアイデアを吹き込んでやるシーンくらいしかわからなかったが、分かる人にしか分からない要素が多数あるのだろう。
しかし、そんなことが分かっても、特に映画が面白くなるわけでもなかろうし、それで得意になるのは、本作で軽侮されているソルボンヌ大学で講演する衒学野郎と同じではないかw

ハリウッドの中では、『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』等の巨額の制作費を投じて特撮を駆使した映画や、『ジェイソン・ボーン』のようなジェットコースター・ムービー等の対極に位置する、いわば日常系映画ということになるのだろう。
残念ながら小生には、いまだウディ・アレンの良さが分からないし、今後もずっと理解できないかもしれない。

追記)
久しぶりに見直して、この映画がいかに政治的メッセージに満ちているかを再確認した。
主人公は明らかに民主党支持者であり、フィアンセの父親は共和党右派である。本作の2年前、2009年に発足したオバマ政権はろくでもない無能政権で、米国内にはオバマ批判のティーパーティー運動が盛り上がるが、主人公はそれに批判的だ。彼の思想の健全性を疑った父親は探偵を雇って素行調査をさせており、主人公はそんな父親の取巻きと馴染めず違和感を抱き、古き良きパリに逃避している……という構図なのだ。

しかし、その古き良きパリがウディ・アレンを歓迎するかは極めて疑わしい。ヘミングウェイ『日はまた昇る』はまさにこの20年代パリからスペインを描いた傑作で、サブキャラクターの一人・小心翼々たるボクサーが恋人を横取りされたと勘違いして、嫉妬から主人公をノックアウトした挙句、許しを請うというバカげたシーンがあるが、ウディ・アレンがこのボクサーとダブって見えるのは皮肉なことだ。
内面のぐじゃぐじゃをぶちまけ続けているウディ・アレンを見たら、行動の作家が逆に彼をぶん殴ると思うのは小生だけだろうかw

徒然草枕