「可もなく不可もなく」ミッドナイト・イン・パリ 回さんの映画レビュー(感想・評価)
可もなく不可もなく
評価が良かったので鑑賞。悪くはなかったが、面白いかと言われると普通。人におすすめまでして観てもらいたいとは思わない。
1920年代のパリにいる芸術家が出てくるが、芸術などに興味があまりない日本人だと、名前を聞いても分からない人物が多い。主人公のギルが「まさかあの〇〇に会えるなんて!」と始終驚いて興奮しているが、共感できない部分もあった。名前だけ出てくる芸術家も入れると数が多く、各々の人物はちょい役で深みは無い。
Wikipedia片手に、芸術家たちの名前が出るたび映画を止めて調べながら観た。名前を知っている人が観ると、もっと楽しいだろうと思う。
主人公ギルの憧れる1920年代のパリと、ギル周囲の現代アメリカ人との対比が、夢と現実の対比になっている。
現実では婚約者にも、その両親にも、婚約者の友人にも、空気が読めず、夢見がちで頭がおかしいと批判ばかりされているが、不思議なことに1920年代の人々はギルを批判しない。未来から来たため、ズレて素っ頓狂なことを言うギルを拒絶せず、受け入れ、共に楽しんでくれる。
過去=夢は拒絶しないのだ。これは、ギルが現実から目を背け、夢を肯定しているからそうなのだと思った。
しかし、展開が変わったのは中盤~終盤。ここだけが作中で唯一面白いと感じたところ。
1920年の魅力的な女性アリアドナとギルが、ベル・エポックのパリにタイムスリップしてしまった時。
その時代の画家たちが口をそろえて「生まれるならもっと昔が良かった。ルネッサンス時代に」と言うのだ。そして、「ぺル・エポックこそがパリの黄金期よ」と夢見がちな顔をするアリアドナに自分を重ねて、ギルは初めて自分を客観視する。
所詮どの時代に生まれても、昔が良かったと言うのだ。現代でも、1920年代でも、ベル・エポックでも、ルネッサンス時代でも。
ベル・エポックのパリに残る選択をしたアリアドナと、ギルは別れる。彼女との別れは、1920年代こそ黄金時代だと夢見る自分との別れなのかもしれない。
だが、現代に戻ったギルは、パリを愛しつつ現実にも目を向けるようになったので、別れは大きな前進なのではないかと思う。