「もっとダーティな“正義”でも良かったかも」ブリッツ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
もっとダーティな“正義”でも良かったかも
狂気の殺人鬼を、凶暴なはみ出し刑事が追い詰める……
そんなあらすじから真っ先に連想したのはやっぱり『ダーティハリー』。
まぁあれは僕が生まれる遥か以前の映画で、
「あー、当時はエポックメイキングな映画だったんだなあ」
という感慨こそ抱くものの、スゲー面白い!という印象は残念ながら無い訳で。
だから本作は若い観客でも楽しめる『ダーティハリー』的映画かもと期待していたのだが、
実際、なかなか楽しめた。
まずは御存知、ジェイソン・ステイサム兄貴!
何でもかんでも腕っぷしに物を言わせるオッソロシイ刑事だが、
ユーモアはあるし、同僚達の悩みを解決しようと色々と気を回す情に厚い男でもある。
早い話がジャイアンである(←違う)。
エイダン・ギレン演じる殺人鬼も、雑な犯行の割には
奇妙に研ぎ澄まされた動物的な勘でのらりくらり逃げまくる姿が憎たらしい。
その下卑た笑いの裏には警察への——更には社会そのものへの憎悪が見え隠れする。
派手な見せ場は無いし、展開のアラも目立つが、キャラやアナログなアクションで魅せる。
街路をひたすらに走りまくる中盤のチェイスもいいね。
監督がCM界出身というだけあって音楽もクールだ。サントラ欲しい。
また作り手には、自国の暗い側面をエンタメ映画で描きたいという思惑もあったんだろう。
クスリに手を出す刑事。
ギャングを抜けられない青年。
殺人の阻止より特ダネを優先する記者。
車上荒らしの現場を見られても悪びれない少年たち。
イギリスの内情について知識がある訳でも無いが、
「イギリスって病んでるなあ……」と、この映画を観て感じた。
(ま、日本もいい勝負さね)
だがその点について不満がひとつ。
別に「暴力反対ザマス!」とモラリストを気取る訳じゃないけど、
犯罪に対しては否定的な描写をしてるのに、
主人公の暴力をクールに演出しようとしてるのはなんかチグハグじゃない?
この刑事のやってる事は“常識的”な正義とは違う。
だがこれくらい凶暴な正義じゃないと止められない残忍な連中が、世の中にはいる。
それはある種の諦念な訳だが、この映画は寧ろ
それを積極的に肯定しているように僕には見える。
上層部との対立とか、主人公の弱点とか、
暴力が更なる暴力を生む展開とかを掘り下げて、
彼を単なるヒーローではなく、もっと“ダーティ”に見せてほしかったかな。
ともあれ、悪くない出来。
<2011/10/15鑑賞>