ザ・ウォード 監禁病棟 : 映画評論・批評
2011年9月6日更新
2011年9月17日より銀座シネパトスほかにてロードショー
昨今のスプラッター映画とはひと味もふた味も違う風格がある
少女クリスティーンが森の中を裸足で疾走する不穏な冒頭から一気に引き込まれる。ある農家に放火して茫然と立ちすくむ少女は、警官に捕まり、精神病院に収容される。どうやら彼女はここを脱走したらしい。堅牢なゴシック建築を思わせる威容を誇る病院には4人の少女がいて、心の内を見せない彼女たちとのちぐはぐな会話から、次第にアリスという謎めいた少女の存在が浮かび上がってくる。
やがて、夜な夜な、院内に醜悪な形相の殺人鬼が出没し、少女たちは一人ずつ消されていく。自分の証言を誰も信じてくれず、身の危険を感じたクリスティーンはふたたび脱走を試みるが――。
1966年という時代背景に加え、ヒロインのアンバー・ハードは「鳥」のティッピ・ヘドレンを幼くしたようなブロンド美女であり、意地悪な少女はイタリア・ゴシックホラーの絶叫女優バーバラ・スティールに酷似するなど、全篇に60年代の薫りが漂うが、むしろ、この映画が参照したのは、恐るべき精神病院ものの原典、アナトール・リトバク監督の「蛇の穴」だろう。ヒロインの苦悩の源泉である封印された幼児体験の記憶、冷酷を絵に描いた看護婦長、一見、優しそうで裏がありそうな医師、そして、なによりもおぞましき電気ショック療法の描写がそっくりなのである。古典的で端正な語り口には、昨今のこけおどしなスプラッター映画とはひと味もふた味も違う風格がある。永遠のB級の巨匠ジョン・カーペンターの鮮やかな復活を喜びたい。
(高崎俊夫)