「落下しても這い上がり続ける英雄の心」007 スカイフォール 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
落下しても這い上がり続ける英雄の心
僕は鑑賞前、この『スカイフォール』が前2作で見せたドラマ性に
荒唐無稽で派手なアクションを加えた映画になるのではと期待していた。
予告編を観て同じ期待を寄せている方に、はっきりと伝えておきたい。
本作にアクションの量や規模を期待しない方が良い。
印象としては『カジノロワイアル』や『ロシアより愛をこめて』に近いだろうか?
アクション映画ではなく、アクション要素の強いサスペンス映画だと
心構えしておくと、本作をより楽しんで観られると思う。
とはいえ、
冒頭15分のアクションは文句無しに凄まじいし、
クライマックスは緊迫感も高く、しかも“攻め”が主体のボンド映画では異例の展開。
更には、往年の007シリーズを知る人には堪らないシーンだらけ!
天才Qの復活(あの名台詞も!)。
アンティークなアストンマーティンDB5のまさかの活躍。
お馴染みのあの女性・あの部屋の再登場。
そして『スカイフォール』。
シリーズ50周年という節目で無ければこんな大盤振舞いは観られなかったろう。
前々作が007というキャラクターをリセットさせた作品とするなら、
本作は007の存在意義自体を見つめ直す、真の原点回帰だ。
なぜ彼は蘇り続ける?
PCひとつで何でもできる現代において“生身”の英雄に存在意義はあるのか?
007の不屈の姿と、Mの熱い演説から考えた事。
恐怖を断つには、恐怖の根源を知らねばならない。
恐怖を与える者が抱える憎悪。その根源を知らねばならない。
それはPC画面ではなく生身の人間と接さねば得難い情報だ。
だからこそ、その恐怖を身を以て味わい、叩きのめされてなお蘇り続ける、
“英雄の心”を持つ者が必要なのだ。
今回登場する敵シルヴァとボンドの差はそこだと思う。
彼はシリーズ最強の敵とは言い難いが(個人的にはレッド・グラント)、
最も悲痛な敵であることは間違いない。
任務の性質上、親を失くしたみなしごがスパイとして育成されるのなら、
彼らに存在理由を与えるMはボンドにもシルヴァにも母同然の存在だ。
シルヴァが時折見せる狂ったような泣き笑いには、
“国家に捨てられた恨み”より“母に捨てられた哀しみ”が滲む。
そして、同じ哀しみを味わいながらも蘇えるボンド。
「私はひとつ正しかった」
Mの言葉に、このシリーズで初めて涙してしまった。
彼女が信じる英雄の心を、僕らもまた信じ続けたいのだ。
<2012/12/1鑑賞>